「どうかあしからずご了承ください」など、どうしても期待に沿う返事が出来ないときに使われる「あしからず」という言葉。皆さんは正しく使えているでしょうか。今回は「あしからず」の使い方を徹底解説していきます。目上の人に使える敬語なのか、言い換えをするにはどうしたらいいのか、返事はどうすればいいのかなど、例文を交えながら確認していきましょう!
目次
実は失礼?「あしからず」の意味とは
「あしからず」の意味
「あしからず」は「悪しからず」とも書け、もともとは古語の「悪し」という言葉と、打ち消しの助動詞である「ず」を組み合わせたものです。「悪し」は「物事のありさまがよくない、不快な感じをもつさま」を意味しますが、つまり「悪しからず」とは「不快には思わないでほしい」という意味です。
ビジネスシーンや日常で使う際には「相手の希望に添えず申し訳ない気持ちを表す」ときや、「やむを得ない理由で相手に迷惑をかけたり、不快な気持ちにしてしまう可能性があるときの前置き」として使われます。相手のことを思いやって使う言葉の1つとも言えるでしょう。
基本的な使い方としては、何かのお願いをする言葉の前につけて使います。
例えば「知っておいてください」という意味の「ご承知おきください」の前につけて「あしからずご承知おきください」とすることで、「知っておいてほしいことについて不快に思うかもしれないが、事前に知っておいてほしい」という意味になります。
なぜ「あしからず」が失礼・むかつくと言われるのか
しかし、目上の人に対して「あしからず」と使ったり、ビジネスシーンで使うと「失礼」「むかつく」「感じが悪い」と汲み取られやすい言葉でもあります。それはなぜなのでしょうか。
「あしからず」は「やむを得ない理由で相手に迷惑をかけたり、不快な気持ちにしてしまう可能性があるときの前置き」として使うと説明しましたが、相手からすると「不快にさせることに対して謝るのではなく、予防線を張っているような感じ」が気になるのでしょう。また「あしからず」の「悪いようには思わないでほしい」という保身のニュアンスがあるのも、印象が良くない原因なのかもしれません。
例えば、次のようなシーンがあるとしましょう。
シーン:取引先との会議があるが、自分は休暇中なので代理の者が担当する
取引先に対して、自分は参加できなくて申し訳ないが、代理の田中が担当することを伝えるとき、次のどちらのほうが印象がよいでしょうか。
例文①:私の休暇中は同部署の田中が対応します。あしからずご了承ください。
例文②:私の休暇中は同部署の田中が対応します。大変恐れ入りますがご了承ください。
どちらも正しい使い方ですが、「あしからず」のほうがさっぱりとした印象で、「大変恐れ入りますが」のほうが休暇中に迷惑をかけるかもしれない、相手を思いやる気持ちが出ています。
このように「あしからず」は人によって捉え方が少し異なる言葉です。
ですから正しい使い方や、使うべき場面を知る必要があるわけです。
【例文つき】「あしからず」の正しい使い方
前述したように「あしからず」は「不快に思わないでほしいけれど~」という意味なので、単体では使いません。今回は「ご承知」「ご了承」「ご容赦」という「あしからず」とセットで使う言葉と一緒に使い方を見ていきましょう。
①あしからずご承知おきください
「ご承知おきください」とは「知っておいてください」を丁寧な言い方にした言葉です。
つまり「悪くは思わないでほしいが、事前に知っておいてください」という意味になります。
【例文】
・会費は事前に集金させていただきますので、あしからずご承知おきください
ただし「承知する」という言葉が謙譲語の雰囲気があること、加えて「あしからず」のイメージも一方的な感じがすることから、できれば避けたい言い方です。
相手に対して「知ってほしい」ことを「あしからず」と組み合わせて伝えるのであれば、次に紹介する「ご了承ください」のほうがいいでしょう。
②あしからずご了承ください
「ご了承ください」とは「納得したうえで理解し、承諾してください」という意味です。
つまり「悪くは思わないでほしいが、納得したうえで納得したうえで承諾・承知してください」という意味になります。
「ご承知」と「ご了承」で同じようにも見えますが、「ご承知」は理解があってもなくても「知ってほしい」ことがメインで、「ご了承」は「理解したうえで了解してほしい」ということがメインです。自分がどんなニュアンスで相手に伝えたいかを考えて使い分けましょう。
【例文】
・こちらは30個限定の商品です。あしからずご了承ください
・雨天の場合は中止になる場合がございます。あしからずご了承ください
・個別のご連絡はしておりませんので、あしからずご了承ください
・〇月〇日以降の注文は年明けの発送となりますので、あしからずご了承ください
③あしからずご容赦ください
「ご容赦ください」の「容赦」とは「許すこと」ですから、「許してください、大目に見てください」という意味になります。つまり「あしからずご容赦ください」は、「悪くは思わないでほしいが、どうか大目に見ていただきたい」という意味です。
【例文】
・輸入品のため箱が汚れている場合がありますが、あしからずご容赦ください
・在庫が不足しておりお届けに1か月かかる見込みです。あしからずご容赦ください
・2日~5日までお休みをいただきます。あしからずご容赦ください
「あしからず」を使うときの注意点やNGポイント
①自分に明らかに非があるときには使わない
例えば、提出期日がどうしても守れずに資料を提出する場合など、やむを得ない事情ではなく、明らかに自分側の都合で相手に迷惑をかける際には「あしからず」は使いません。その場合は素直に謝罪をするのが正しい伝え方です。
例)多忙につき、提出書類を期日までに出せませんが、あしからずご了承ください
→多忙につき、提出書類を期日までに出せず大変申し訳ございません。何卒よろしくお願いいたします。
あくまでも「どうしようもない事情だから悪くは思わないでね」というニュアンスの「あしからず」であることを覚えておきましょう。
②省略をしない
「あしからずご了承ください」の「ご了承ください」を省略して、「あしからず」のみで文末を締める言い方もあります。これはしつこい言い方を嫌った江戸時代の人々が「最後まで言わずに格好よく締める」ということを粋としていたために、流行った言い方です。メールの文末や、何かの催しの司会の方などでよく言いますが、丁寧な印象ではないためビジネスシーンでは使わないほうがいいでしょう。上司や目上の人に使うのはNGです。
③どうしても使う場合は文末を「ください」にしない
「あしからず」を使いたい、「あしからず」でないと自分の気持ちのニュアンスが伝わらないというときは、文末や前後の言葉に気を付けてより丁寧な言い方にすると良いです。
というのも「あしからず」という言葉自体、人によっては冷たい印象を受けるため、これまで紹介した「~ください」という文末だと、さらに一方的な物言いに聞こえます。
そのため、例えば文末の「~ください」を「~ようお願いいたします」「~ようお願い申し上げます」「~いただけますと幸いです」にすると丁寧な印象になり、「あしからず」が持つ冷たい印象が柔らかくなります。
【例文】
・皆様にはご迷惑をおかけいたしますが、あしからずご容赦くださいますようお願いいたします
・お客様には大変ご不便をおかけいたしますが、あしからずご容赦くださいますようお願い申し上げます
・あしからずご了承いただけますと幸いです
④不特定多数の人に投げかける言葉として便利
なんとなく「あしからず」はあまり使えないような言葉に思えてきたかもしれません。
しかし「不快には思わないでね」というニュアンスで使えるので、例えば不特定多数に向けて注意喚起をするとき、こちらには責任ないことを注意するときに便利な言葉です。とくに企業が一般の顧客に対して注意事項を書くときに、よく使われます。
【例文】
・事前の確約は出来かねますので、あしからずご容赦くださいませ
・弊社としては一切の責任を負いかねますので、あしからずご容赦ください
・12月30日~1月3日までは休業となります。あしからずご了承くださいませ
上司や取引先、目上の方との会話やメールなど、相手との関係性があったうえでのコミュニケーションでは角が立つ場合がありますが、「会社」と「お客様」との間にある取り決めなど、線引きをはっきりとさせたいシーンでは「あしからず」のニュアンスと印象がぴったりです。
⑤上司・目上の方には使わない
「あしからず」の使い方について説明してきましたが、総じて言えるのは「あしからずはビジネスシーン、特に上司や目上の方には使わないほうがいい」ということです。
しかし、相手の立場を思いやって何かをお願いしたい場面もたくさんあります。その際はこれからご紹介するクッション言葉を使っていきましょう。
失礼なく伝えたい!「あしからず」を言い換えるには?
①知ってほしい、承諾してほしいとき
まずは「あしからずご承知おきください」「あしからずご了承ください」を言い換える方法です。
何かを知ってほしい、確認してほしい、承諾してほしいときには次のような文言を使いましょう。
・ご了承くださいますようお願い申し上げます
・ご理解とご了承のほどよろしくお願い申し上げます
・ご確認のほどよろしくお願い申し上げます
・お含みおきください
「お願い申し上げます」はかなり丁寧な言い方なので、もう少し軽く伝えたいときには「お願いいたします」でいいでしょう。「お含みおきください」は「心に留めておいてください」という意味で、ただ知っておいてほしい、頭の片隅に入れておいてほしいときに使います。
②許しを得たいとき
「あしからずご容赦ください」は「許してください、大目に見てください」という意味ですから、許してほしいときには「どうかお許しください」というストレートな表現が一番いいでしょう。
また、やむを得ずこちら側の都合上、相手に迷惑や負担をかける場合の「大目に見てください」というニュアンスを伝えるときには「ご理解いただけますと幸いです」や「ご理解のほどよろしくお願いいたします」がおすすめです。
・どうかお許しください
・ご理解のほどよろしくお願いいたします
・ご理解いただけますと幸いです
③謝罪するとき
自分に非があり相手に迷惑をかけるため「あしからず」が使えない場合は、きちんと謝罪するところから入りましょう。そのうえで「〇〇となりますので、何卒よろしくお願い申し上げます」と伝えるとベストです。
・ご迷惑をおかけしましたこと、深くお詫び申し上げます
・大変申し訳ございません
④クッション言葉
「あしからず」を使いたいということは、おそらく何かしらのクッション言葉を使って、相手に何かをお願いしたいということでしょう。その場合に次のような便利な言葉があります。
・恐れ入りますが
・申し訳ございませんが
・何卒
・どうか
・ご希望に添えず恐縮ですが
・せっかくですが
【例文】
・大変申し訳ございませんが、ご容赦くださいますようお願い申し上げます
・何卒ご了承くださいますようお願いいたします
「あしからず」の希望に添えなくて申し訳ない気持ちを伝えるには「ご希望に添えず恐縮ですが」が使えます。また「何卒(なにとぞ)」や「どうか」は「あしからず」とセットで使うと、「あしからず」単体で使うよりも丁寧な印象になります。
「あしからず」への返事の仕方・英語表現とは?
「あしからず」への返事の仕方
「あしからず~」と言われたときにどう返事をすればいいのかですが、相手がこの言葉を使うということは、こちら側の要望が通らない状況ということです。それに対して、気にしなくていい旨を伝えたいときには
・どうぞお気になさらないでください
・大丈夫でございます
・全く気にしておりません
などと伝えるといいでしょう。
ただ「あしからず」はどちらかというと、メールなどの文章で相手の気を悪くしないように丁寧さを増すための文言、クッション言葉であるため、そこまで注意して返事をする必要はありません。
「あしからず」を英語で言うには?
「あしからず」は「不快には思わないでほしいんだけど」という前置きや、相手に対する申し訳なさを伝える表現ですが、英語圏は日本の文化とは違い、自分が相手に何を求めているのかをはっきりと伝える文化です。そのため「気を悪くしないでほしいんだけど=No hard feelings.」というような口語的な表現はあっても、ビジネスシーンで使われるようなクッション言葉に相当する表現がありません。
「あしからずご了承ください」=「ご理解ください」ということであれば、
Thank you for your understanding.
I appreciate your understanding.
で「ご理解いただきありがとうございます」になります。
また「あしからず」の相手に迷惑をかけることへの謝罪を言いたいときには
We apologise for the inconvenience.
で「ご迷惑をおかけして申し訳ございません」になります。
もしくは会社の休みなど、何かを知らせたい場合は
Please note that…
で「…をご了承ください」になります。
「金曜日は臨時休業となりますのでご了承ください」は次のとおりです。
Please note that we will be closed on Friday.
まとめ
「あしからず」の使い方や使うときの注意点、類語や言い換えなどを解説してきましたが、いかがでしたか。言葉自体の意味は相手を思いやるものですが、人によっては「感じが悪い」「むかつく」印象になることがわかりました。なるべく人間関係が重要な職場では使わずに、違うクッション言葉で言い換えをしてコミュニケーションをとっていきましょう。