ビジネスシーンだけでなく、社会人として生きるうえで使う機会の多い「お手数おかけします」という言葉。あらゆるシーンにおいて非常に使いやすい言葉ですが、「具体的な意味を理解して使用していますか?
今回は社会人としての「お手数おかけします」の使い方をご紹介します。言葉の意味を深く理解しておけば誤った使い方を防ぐことができます。どのような方にも失礼のないよう、この記事を通じて正確な使い方をマスターしましょう。
目次
「お手数おかけします」の意味
上述したように「お手数おかけします」は非常に多くのシーンで使われる言葉。まずは言葉の意味について深く理解しておきましょう。
「お手数」にはどんな意味があるの?
お手数と書いて「おてすう」または「おてかず」と読みます。この「手数(てすう)」という読み方は、訓読みと音読みの2つを組み合わた読みであることがわかります。
漢字 | 音読み | 訓読み |
手 | シュ | て |
数 | スウ | かず |
「てかず」と「てすう」について詳しい意味を見ていきましょう。
て-かず1 「てすう(手数)1」に同じ。「手数をかけた料理」 2 「てすう(手数)2」に同じ。「お手数ですが、よろしくお願いします」 3 囲碁・将棋などで、ある手段を施すのに必要な着手の数。また攻め合いで、石を打ち上げるために詰めなければならない駄目の数。「手数を読む」「白のほうが手数が長い」 4 ボクシングで、パンチを出す度数。「手数は多いが有効打が少ない」 引用:weblio辞書 |
て-すう1 それをするのに要する動作・作業などの数。てかず。「手数のかかる料理」 2 他人のためにことさらにかける手間。てかず。「お手数でもよろしく」「お手数をかけて恐縮です」 引用:weblio辞書 |
このように、「てすう」と読むことで、なにか作業をするために必要な動作や作業などの数、他人のためにかける手間といった意味であることがわかります。その「てすう」に、
- お手数の「お=」「尊敬を表す接頭語」である「お」
- おかけしますのお=「尊敬を表す接頭語」である「お」+「かける」の敬語(謙譲語)である「かけます」
を付け、「お手数おかけします」と組み合わせることで、「負担をかけさせてしまう事へのお詫び」やそれに対しての「感謝」がこもった表現であることがわかります。
「お手数をおかけします」とどちらを使うのがマスト?
稀に「お手数”を”おかけします」と使う場合もあります。助詞である「を」を入れることで、労力を掛けてしまったことをより明確に伝えられます。また、文法的には「を」入れる方がより感情が伝わりやすいことから、上司やお客様に使う場合は「お手数をおかけします」と使うのがマストです。
「お手数おかけします」の基本的な使用例
「お手数おかけします」には、こちら側の都合によって「手間」「負担」「労力」をかけさせてしまう場合に使用することが多いです。そのためさまざまなシーンで使い回すことができます。
「ありがとうございます」の意味を含める場合
自分が相手になにかを求める状況のなかで「お手数おかけします」を使う場合があります。たとえば、急ぎの資料作成を頼まれ、あらゆる作業をしているうちに、プリンターに自分が出力した資料が置きっぱなしのまま放置していたとします。そのとき、プリンターに用事のあった上司が資料に気づき、自分のもとへ届けてくれた場合は「お手数おかけします」と伝えることができます。
また「お手数おかけし申し訳ございません」と伝えることで、こちらの感謝の意がより伝わりやすくなります。「放置していて申し訳ございません。次回は気を付けます」という意味を含めて丁寧に伝えられるようになります。
・お手数をおかけしました。ありがとうございます。
・お手数をおかけしました。心から感謝申し上げます。
・資料のご記入ありがとうございました。お手数をおかけしました。
・ご協力いただいた皆様に感謝申し上げます。皆様のおかげで資料が完成致しました。お手数をおかけ致しました。
・この度はご協力ありがとうありがとうございました。お手数おかけしました。〇〇様のご協力のおかげで無事に業務完了致しました。
・迅速なご対応誠にありがとうございました。お手数おかけ致しました。
「よろしくお願いいたします」の意味を含める場合
なにかしら相手にお願いを申し出る際に、「よろしくお願いします」の意を含んだ「お手数おかけします」を使う場合もあります。
たとえば求められていた資料を作成したものの、どこか誤った箇所はないかを上司に確認してもらう際に「こちらの資料が作成し終わりましたが、念のためご確認していただいてもよろしいでしょうか?お手数おかけします」と伝えることで、「あなたの貴重な時間を割いていただくことになり恐縮なのですが、どうかよろしくお願いします」という意思が伝わるようになります。
・用紙へのご記入よろしくお願い致します。お手数おかけ致します。
・お忙しいところ申し訳ありません。社内アンケートへのご協力よろしくお願い致します。お手数おかけ致します。
・この度はお手数をおかけ致しました。〇〇様のおかげで完了致しました。今後ともよろしくお願い致します。
・お手数ですが、商品の使用用途をお聞かせ願います。
・お手数ですが、会場の様子をお聞かせ願えますか?
「ご苦労をおかけいたします」の意味を含める場合
こちらの申し出により、相手に労力を掛けることが目に見えてわかっている状況の場合は、「ご苦労をおかけいたします」の意味として「お手数おかけします」を使うことがあります。
たとえばご自分のミスによって、上司に修正をお願いしなければならない場合。こちらのミスによって上司の時間を費やしてしまうのですから、労力を掛けてしまうことが目に見えています。このような状況の場合には「こちらのミスにより多大なるご迷惑をおかけし申し訳ございませんでした。お手数おかけしますが、修正などの最終チェックを何卒よろしくお願い申し上げます」といったように伝えることができます。
そうすることで、「あなたの時間をこちらの都合で割いてしまい申し訳ございません。次回から気を付けますので、今回は最終チェックをお願い申し上げます」といった意味が伝わるようになります。
「お手数おかけします」の類語
「お手数おかけします」という意味を持つ言葉は日本語には複数あります。ここでは「お手数おかけします」以外の言葉で同じ意味を持つ言葉について例文と併せて紹介します。
恐れ入ります
「よろしくお願いいたします」の意を含んだ言葉を使う場合は「恐れ入ります」で表現することが可能です。
- 恐れ入りますが、お手隙の際にこちらの資料のご確認をお願い申し上げます。
- お忙しいところご連絡をいただき恐れ入ります。
- 気を遣っていただき恐れ入ります。
ご面倒をおかけいたします
相手に面倒を掛けることがあらかじめ予想される場合は「お手数おかけします」の代用として「ご面倒をおかけいたします」を使うことでより丁寧に相手へ気持ちを伝えられるようになります。
- ご面倒をおかけし申し訳ございませんが、本日中にご確認いただきたく存じます。
- ○○駅前に弊社がございます。ご面倒をおかけしますが■■様のお越しを心よりお待ちいたしております。
- ご面倒をおかけしますが氏名と用件を記入願います。
また、面倒を掛けていないのに「ご面倒をおかけします」を使用すると、かえっていやらしい印象を与えてしまいます。「面倒」は、相手が手間がかかって煩わしいと思う時に使う言葉です。「ご面倒をおかけします」を使う場合は、明らかに迷惑が掛かっていることが予測される場合にのみ使うのがベターです。
また、「ご面倒”を”おかけ致します」のように「を」を入れると文法的、「ご面倒おかけ致します」のように「を」を抜くと口語的な使い方ができます。
お手間をおかけいたします
「お手数おかけします」の類語として「お手間をおかけいたします」といった言葉を使うのも良いでしょう。
「お手間」は物事に費やされる時間や労力のことを指します。そのため、具体的な面倒を掛けている場合は「お手間」に言い換えることで、より相手の労力をねぎらったうえで作業などを依頼できるため、上司やお客様に使っても問題ありません。
「手間をかける」は自分自身が労力をかけることを指し、自分のことに限定されます。相手に労力をかけることをお願いする場合には「手間を取らせる」となるため、使い方に注意しましょう。
また「手間をかけます」という表現は間違っています。「手間をかける」は自分が労力をかけることを指すので、お願いする相手に敬意を払っていないことになります。
- こちらの資料をご確認いただき、問題がなければ必要箇所にご捺印をお願いいたします。お手間をおかけいたします。
- お手間をおかけいたしますが、この日はこちらの会場にご来場いただくことは可能でしょうか?
- お手間をおかけし申し訳ございませんでした。この点に留意し以後気を付ける所存です。
ご迷惑をおかけいたします
「ご迷惑をおかけいたします」も、「お手数おかけします」と似たニュアンスを含んでいます。相手に迷惑を掛けたことが明らかである場合は「ご迷惑をおかけいたします」を、面倒を掛けてしまい申し訳ない気持ちのときには「ご面倒をおかけいたします」で使い分けることで、状況をしっかりと認識したうえでの言葉であることが、相手にも伝わりやすいです。
- ご迷惑倒をおかけいたしますが、現在こちらの電話番号は○○部への直通ですので、こちらの電話番号にお掛け直しいただけますでしょうか。
- ただいまサーバーが大変混み合っています。ご迷惑をおかけいたします。恐れ入りますが、時間を置いてから再度アクセスしてください。
- こちらの確認不足でご迷惑をおかけし申し訳ございません。
お忙しいところ恐縮です
「ご面倒をおかけいたします」よりもへりくだった表現として「お忙しいところ恐縮です」を代用することも可能です。「恐縮」には体が縮まるほど恐れ入ることを意味しています。
体が萎縮してしまうほど申し訳ないと思っている場合に使う言葉であるため、あらゆるシーンで使ってしまうと相手に気を遣わせてしまう場合があります。使うシーンをしっかりと選んで適材適所に盛り込むようにしましょう。
- お忙しいところ恐縮でございますが、明日の○時までに提出いただくことは可能でしょうか?
- ここまで丁寧に仕事をしてくださり、お忙しいところ恐縮です。
- お忙しいところ申し訳ございませんが、今一度資料をご確認いただきご連絡願います。
「恐縮する」がやや大袈裟に感じられる可能性がある場合には「お忙しいところ申し訳ございません」を使うのがマストです。
「お手数おかけします」の誤用例
相手に対して手間をかけることがあきらかなシーンで使う「お手数おかけします」。しかし、丁寧な言葉だからといって、このような使い方では誤用となります。
*「お手数おかけしますが、ご請求書を送付いたしました」 正「ご請求書を送付いたしました。お手数おかけしますがご確認をお願い申し上げます」 *「お手数おかけしますが、そちらの資料を取っていただけますか?」 正「恐れ入りますが、そちらの資料を取っていただけませんか?」 *「お手数おかけしますが、明日までにご連絡お待ちいたしております」 正「お手数をおかけしますが、ご連絡いただきますようお願い申し上げます」 |
どれも自分の都合によって迷惑を掛けることを一方的に伝えています。これではかえって失礼な印象となり、誤った使い方をしていると言えます。どちらも「自分の都合によって労力を掛けてしまうけれども、連絡や確認をお願いしたい」といった意味として使うよう心掛けましょう。
また、「お手数をおかけします」はクッション言葉として認識し、相手に対し配慮していることなどを伝える手段として使うことが重要です。
具体的な使用例 お手数おかけしますが何卒よろしくお願い申し上げます。お手数をおかけしますがこちらに返送いただきますようお願い申し上げます。大変お手数をおかけし恐縮でございますが、明日の○○時にお伺いさせていただきたく存じます。お手数をおかけしますが新しい書類を送付いたしますので、ご確認いただき再度提出をお願いいたします。 |
「お手間をかけさせますが」は誤用
「お手間をかけさせますが」は、相手の手間を自分が押し付けている意味合いになるため、避けるべきです。また、「手間をかける」と「手間を取らせる」が混同してしまっているので、日本語的にも誤用となります。
「手数をおかけして申し訳ありません」「お手間を取らせて申し訳ございません」が正しい使い方になります。
「お手数おかけします」は上司にも使える?
「お手数おかけします」はもともと丁寧な表現であるため、上司をはじめ目上の人への使用は問題ありません。相手の労力に対して感謝したりお詫びの気持ちを伝えたりするための言葉であるため、自分の気持ちをより丁寧に相手へ伝えられるようになります。
「お手数おかけします」をクッション言葉として使えるようになれれば、物事をお願いするときや伝えるときに、物事だけを伝えることがないため、よりやわらかな印象を与えながら頼むことができます。コミュニケーションを円滑にすることができるのです。
相手に対して負荷を掛けていることを承知のうえで、さらに申し訳ないと思っていることが念頭で伝わるため、頼まれた方も「強制された」と不快にならずに済みます。
ただ、自分の行動などによって大きなミスを生んでしまい、上司に多大な迷惑や労力を掛けることが明らかである場合、「お手数おかけします」を使用するとやや軽い印象を与えてしまいます。このような状況の場合は、
- お忙しいところ恐縮でございますが
- 恐れ入りますが
- ご面倒をおかけしますが
など面倒が具体的に表現されている言葉や、自分の状況を体が萎縮してしまうといった意味を持つ「恐縮」に置き換え、「自分のミスによって労力を掛けてしまい申し訳ありませんが、どうかよろしくお願い申し上げます」のニュアンスが伝えられるよう工夫することが大切です。
・お手数ですが〇〇様に〇〇の件をご連絡していただけますか…?
・お手数ですがこのメモを〇〇さんにお渡しいただけますか?
・お手数ですが、〇〇の業務が完了次第ご連絡頂けると幸いです。
・お手数ですが、ご一読とご回答よろしくお願い致します。
・お手数ですが、メールにてご返信をよろしくお願い致します。
・後ほどチャットにて詳細をご連絡させていただきます。
ただし、簡単にできるお願いに対して「お手数」を使うのは避けるべきです。例えば「お手数ですが、その書類をとっていただけませんか?」のようにすぐに解決できるお願いに対して、お手数を使うのは辞めましょう。
ちょっとしたお願いをする際には「お手数ですが」ではなく「すみませんが」「恐れ入りますが」を使うのが適切 です。
「お手数おかけします」の英語表現は?
「お手数おかけします」の英語表現も押さえておきましょう。ビジネスシーンで役立つ表現なので、以下の表現を押さえておくといい印象を与えられるかもしれません。
・「I’m sorry for your inconvenience. 」お手数をおかけします。
・「I am sorry to trouble you、but I would appreciate your cooperation.」お手数をお掛け致しますがよろしくお願いします。
あらゆるシーンで使えるからこそ誤用に注意しよう
あらゆるシーンで応用が利く「お手数おかけします」。心から申し訳ないと思っていたり、ありがたいと感じたりする場合、なにかを頼みたいときのクッション言葉として使えるため、誤って使うことのないよう言葉の意味と使う状況を把握することが重要です。
体が萎縮するほど申し訳なさを感じている場合は、あなたの気持ちをよりへりくだって伝えることができる「恐縮ですが」「恐れ入りますが」を使用するのがベターです。
このように、使うシーンやあなたの状況によって言い換えることもできますから、言葉の意味と類語を知り、あらゆるフレーズを取り入れ、ビジネスシーンでのあなたの印象をぐっと引き上げる言葉使いを意識してください。