日常会話ではもちろんのこと、メールや電話口などでも使用する機会の多い「とんでもないです」という謙遜の言葉。まれに「とんでもございません」と表記したり口にしたりすることもありますが、二重敬語などにあたることはないのでしょうか。今回は「とんでもないです」の言葉の意味と使い方、似たニュアンスのある言葉の紹介や英語・韓国語での表記について解説します。言葉の意味を深く理解し、各国でも気持ちをうまく伝えられる「とんでもないです」をマスターし、グローバルな社会人を目指しましょう。
目次
「とんでもないです」の意味
普段使うことの多い「とんでもないです」という言葉ですが、使うシーンは主に3つあると考えられます。まず一つめは相手の言葉をやわらかく否定したい場合。否定と言っても強い拒否するといった強いものではなく、相手の行為や褒め言葉を預かったのち、その気持ちが自分には恐れ多いと感じ、謙遜した場合に使います。他にも「滅相もございません」といった言葉などを使用し、自分の想定していなかった言葉などに対し、意外性を感じたことを伝える場合も使用します。2つ目には常識やモラルから反したことを行ったり、あってはならない様子であったりした場合。「とんでもないことをしてくれた」など、怒りに任せて叱責する場合などにも使用されます。3つ目は強い否定を持つ場合。「彼女が部長に昇進だなんてとんでもない事態だ」など、なにかに対して強い否定を表す際に使用します。1つ目と3つ目は同じ「とんでもない」を使用しているのにもかかわらず、状況によって大きく意味が異なるため、状況をしっかりと判断したうえで使用することが求められます。
「とんでもないです」は誤用だった
「とんでもない」を敬語表現にした言葉として広く用いられる「とんでもないです」。ビジネスシーンでも謙遜する場合に使用するため、誤用だと感じなかった人も多いはず。実は「とんでもない」という言葉自体形容詞で成り立っています。形容詞で成り立つうえに丁寧語の「です」を付ける必要はないため、厳密に言うと誤用となるのです。とは言っても、謙遜の意を伝える言葉として広く使用されているため、上司やお客様、目上の人に使うケースが増加しています。使い勝手も良く、多くの人に認知されつつある言葉ではあるものの、本来は間違った言葉であることは理解しましょう。
ビジネスシーンでの注意点
ビジネスシーンで多く使う「とんでもないです」ですが、評価やお礼を受けた場合において、謙遜の意を伝え切り返しのために「とんでもございません」と形を変えて使用している方も多いのではないでしょうか。上述したように「とんでもない」ひとつで形容詞であることから、「ない」のみを「ございません」に変えるのは文法的には誤用となります。こちらも近年認知されつつある言葉のひとつとなっているものの、公の場所や上司、お客様に使うのはふさわしくないので、「とんでもない」に名詞の「こと」、丁寧語の「ございます」を付け加え、「とんでもないことでございます」と伝えるのが正しい表現です。
「とんでもないです」の使用例
ビジネスシーンの多くで「とんでもないです」を使用する場合、そのほとんどが「謙遜する気持ちを相手に伝えるとき」に使うはず。ここでは、
- 謙遜の意を込めた場合
- 目上の人からお礼を言われた場合
- 目上の人から謝罪された場合
の使い方について解説します。正しい日本語を覚え正確に使用しましょう。
謙遜の意を込めた場合
上司や目上の人に褒められた際に、「そんなことはないです」「それほどでありません」などとやんわり否定する意味で使用することがあります。『今回はよくやってくれた!』「いえ、とんでもないです」のような具合です。目上の人に限らず、同じくらいの年齢の人や同僚、後輩に使うのも問題はなく、どんな人にも謙虚な姿勢を伝えられます。「滅相もございません」「身に余るお言葉です」などといった言葉に言い換えることもできます。しかし、謙遜するあまり多用してしまうと、うっとうしく思われたり、気持ちを素直に受け取ってくれない堅苦しい人といったイメージを与えたりすることもあるため、何度か「とんでもないです」で謙遜し、それでも褒められる場合は「ありがとうございます」とお礼に変えて受け取るようにしましょう。
目上の人からお礼を言われた場合
目上の人からお礼を言われた場合も「とんでもないです」と使うことが多いでしょう。確かに「どういたしまして」と伝えると、やったことが「やってあげたこと」と捉えられたり、目上の人と同等の立場、またはやや上からのような失礼な印象を与えたりすることがあります。そういった可能性を防ぐための「とんでもないです」は使用して問題ないと言えます。『この間は早急に対応してくれてありがとう。非常に助かったよ』「とんでもないです」という具合です。ただし、「とんでもないです」のみと使うと相手の気持ちを断っているように聞こえてしまうことがあります。目上の人からのお礼に対してより丁寧に謙遜していることが伝わるような表現をする場合は、
とんでもないです。お役に立てて光栄ですとんでもないです。そこまで言っていただき恐れ多いです |
と、ひと言添えて返すのがベターです。
目上の人から謝罪された場合
目上の人から謝罪された場合にも「とんでもないです」を使用することがあります。「謝ってもらうほどではないですよ」といった気持ちを伝える際に使う人も多いでしょう。この使い方も、多用してしまえば相手によっては謝罪を拒否しているように聞こえてしまいます。謝罪された場合もひと言添えて、
とんでもないです。お気になさらないでくださいとんでもないです。どうぞ引き続きよろしくお願い申し上げます |
と伝えることで、謝罪を受け止めつつも、そこまで気にしないでくださいねといったこちらの気持ちをスマートに伝えられるようになります。
「とんでもないです」の言い換え表現
「とんでもないです」ばかりを多用していると、どうしても言葉に対する知識不足を感じさせてしまうことも少なくありません。ここでは「とんでもないです」に似たニュアンスを持つ類語について開設します。言葉のバリエーションを増やし適した状況に合わせて使い回していきましょう。
お気遣いありがとうございます 使用例:無事退院しました。お気遣いありがとうございます。お忙しいところご対応いただいたおかげで無事作業を進めることができました。お気遣いありがとうございます。 など 意味:「お気遣いありがとうございます」は「とんでもないです」の類語になります。相手から気遣ってもらったことに対して感謝の意を伝える場合の敬語表現です。退院した際の上司からの連絡や、天候によって無事に帰宅できたか心配してくれたお客様からのメールや電話があった場合に使用します。 |
そんなことないです 使用例:そんなことないです。チームの連携で遂行できたまでです。そんなことないです。皆様のお力添えのおかげです。 など 意味:上司や目上の人、お客様や取引先の人になにか評価を受けた際、「自分はそんな立場ではありません」「そんな評価をいただけることはしていません」など、謙虚な姿勢を伝える場合に使用します。ストレートに拒否してしまうと相手に対して失礼な印象を与えてしまうため、相手の評価を受け止めつつもやんわりと否定するニュアンスを持っています。 |
恐縮です・恐れ入ります 使用例:気にかけていただき恐縮です。ご多忙のなか丁寧な回答をいただき恐れ入ります。 など 意味:「恐れ入ります」は動詞の「恐れ入る」を敬語で表現した言葉です。体を縮こめるほど恐縮している状況や、自分の力不足を感じ相手に対して謝罪する際などに使用します。また、謝罪の意思のみならず相手への感謝も同時に伝えられる言葉でもあります。相手からの褒め言葉などに対して「恐縮です」「恐れ入ります」を使うことで、「体が縮まるほありがたい」という意味として伝えることもできます。 |
滅相もないです 使用例:私がリーダーになるなど滅相もないです。滅相もないです。○○さんと□□さんが努力してくれた結果です。 など 意味:「とんでもないです」の類語として「滅相もないです」も使用できます。「滅相」は仏語であり”因縁によって生じた一切のものが現在の存在から滅し去り、過去に入ること“(引用:goo辞書)と記載されており、日本語としては別の意味として”あることのないさま、とんでもないさま“(引用:goo辞書)といった意味を持っています。日常会話やビジネスシーンでは後者を使用するため、相手の気持ちを受け取ったうえで、それでも相手の主張が事実とは異なるため否定したい際に使用します。否定的な意見をそのまま伝えてしまうと相手に対して失礼な印象を与えてしまうため、「滅相もないです」を使うことでやわらかい印象のまま否定できます。 |
幸甚に存じます(こうじんにぞんじます) 使用例:本日はこのような素敵な会食にご招待いただき幸甚に存じます。このような賞をいただき幸甚に存じます。 など 意味:賞や褒め言葉に対して「この上ない幸せ」「大変ありがたい」といった意味を伝える際に使用します。「とんでもないです」よりも使うシーンが限られますが、「幸甚に存じます」を使うことで、より丁寧な切り返しができます。会話などで使うよりも、メールや手紙などを送る際に使うのがベターな言葉です。 |
光栄です 使用例:このような素晴らしい賞をいただき光栄です。部長へと昇格させていただき光栄です。 など 意味:「とんでもないです」の類語として「光栄です」もビジネスシーンでは広く活用します。重役を任された際や賞をいただいた場合などに使うため、相手が目上の人や目下の人手も関係なく使用できます。 |
「とんでもないです」を海外の言葉で表記する場合
「とんでもないです」は海外の言葉で表現することも可能です。英語と韓国語でどのような表現を使うのかを知ることで、グローバルな企業に勤めている方でもすぐに使えるようになりますよ。
英語の場合
No,way!(とんでもないです!)It’s my pleasure(とんでもないです)Never mind(気にしないでください)It was nothing(とんでもないです)Don’t mention it.(とんでもないです) など |
韓国語の場合
별 말씀을(ピョル マルッスムル)별 거 아닙니다(ピョル ゴ アニムニダ) など |
フランス語
Hors de question(とんでもございません)Quel culot(とんでもございません)blessant (とんでもございません) など |
中国語
请不要在意(qǐng bùyào zàiyì)(気にしないでください)你不要谢我(nǐ bùyào xiè wǒ)(私に感謝しないでください)不要这么客⽓(bùyào zhème kèqi)(そんなに礼儀正しくしないでください)没关系(méi guānxi)(大丈夫です)没问题(méi wèntí)(問題ないです) など |
まとめ
「とんでもないです」は主に3種類の使い方があることがわかっていただけたのではないでしょうか。1つ目は自分の気持ちを謙遜し、相手の行為や褒め言葉を素直に受け取ることに気が引けてしまう場合などに使用する場合。2つ目はあってはならないことが起き否定したい場合。3つ目は相手や物事を強く否定したい場合です。ビジネスシーンでは1つ目を使うことが多いので、使う状況を考えなければ大きな誤解を与えてしまうことがあるので注意しましょう。また、「とんでもないです」と似たニュアンスを持つ類語などを覚えておくことで、大きな賞を与えられた場合や、褒め言葉を預かった際などにより丁寧な言葉で返せるようになります。社会人として言葉の知識を増やしておけば、目上の人への配慮ができる人と印象づけられますから、この記事を通じてしっかりと言葉の意味について学んでおきましょう。