正しい敬語を使うのはビジネスマナーの基本ですよね。特に、取引先などとのやり取りで利用するメールは、正しい敬語表現を意識するだけでなく、正しい漢字表記にまで気を付けなければなりません。しかし、普段使っている敬語や漢字の表記が正しいかどうか、きちんと理解できていない人も多いのではないでしょうか。実際、日常的に使われている敬語や漢字にも、誤った表現や表記は存在します。今回は、間違えやすい表記の中から「ご存知」に焦点をあて、ご存知の意味や使い方を例文を用いて解説していきます。ご存知の類語や英語表現もあわせて紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
「ご存知」「ご存じ」正しいのはどっち?
何かについて知っているか質問する際、ビジネスの場面では「ご存知ですか?」を使用することが多いですよね。会話であれば漢字の表記は気にする必要はありませんが、メールなど文章であれば、表記も意識する必要があります。漢字のほうがビジネスシーンには適していそうとなんとなくで、「ご存知」を使っていませんか。「ご存知」と「ご存じ」どちらが正しいのでしょうか。
「ご存知」の意味は?
「ご存知」は「知っている、思っている」という意味で、読み方は「ごぞんじ」です。
「存ずる」の連用形である「存じ」に、 尊敬の意の接頭語「ご(御)」をあわせた尊敬語表現になります。
「ご存知」は正しい表記なの?
「ごぞんじ」は、「ご存知」の他にも「ご存じ」「御存じ」「御存知」のようにさまざまな表記があります。実は、「ご存知」の「じ」は、動詞「存ずる」の活用語尾なので、「存知」の「知」は当て字だと言われています。したがって、「じ」はひらがなで表記するのが正しいのです。しかし、正しい表記ではないものの、「存知」という表記で一般的に広く使われているため容認されています。つまり、どの表記も間違いではありません。文字を変換しようとした際に、変換候補が多いとどれを使えばいいのか迷ってしまいますよね。
ビジネスシーンでは「ご存知」が一般的
一般的に使われることが多いのは、「ご存知」または「ご存じ」という表現です。なぜなら、基本的に尊敬の意を表す「御」は、ひらがなで「ご」と表記されるからです。では、ビジネスメールでは、どちらの表記が適切なのでしょうか。ビジネスの場面においては、「ご存知」のように、「知」を漢字にした表現がより多く使われています。正しい敬語を使うべきであるビジネスの場面において、正しい表記の「じ」ではなく、当て字である「知」を用いてもいいのかと思いませんか。なぜ当て字である「ご存知」が用いられるようになったかというと、こちらのほうが相手に意味が伝わりやすいから、と考えられます。「存じ」とひらがなで表記されているよりも、「存知」と表記されているほうが、漢字から「知っていること」という意味を想像しやすくなりますよね。もちろん、ビジネスシーンでは正しい日本語を使うことが大切ですが、正しい表記にとらわれすぎず、慣習にのっとって「ご存知」と書くのが良いでしょう。
「ご存知」を用いた例文
「ご存知」の意味や正しい表記が分かったところで、つづいては「ご存知」を用いた表現を紹介します。「ご存知」は目上の人に対して使うことも多い言葉なので、意味だけでなく正しい使い方も知る必要があります。例文も紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。
ご存知ですか
「知っていますか」を丁寧にした言い方が「ご存知ですか」です。「ご存知ですか」は、目上の人に対して物事を知っているかどうかを確認するときに使います。より柔らかい表現に「ご存知でしょうか」があります。どちらを使っても問題ありません。
【例文】
・新しいプロジェクトについてご存知ですか。
・研修の日程変更についてご存知ですか。
・代表の連絡先はご存知でしょうか?
・彼女をご存知でしょうか。
・先日の打ち合わせの件についてご存知でしょうか?
ご存知の通り
「ご存知の通り」は「知っていると思いますが」という意味を持ちます。すでに知っている内容を再度伝える際に、「念のため確認しますが○○です」というニュアンスで使います。ただし、「ご存知の通り」は相手がその事実を知っていることを前提とした言い方であり、知らない場合は失礼にあたる可能性があります。そのため、相手が知らない可能性があることを考え、「ご存知かもしれませんが」とあえて断定しない言い方をしたほうが無難です。また、「ご存知かもしれませんが」は、「ご存知かと思いますが」「ご存知のことと思われますが」などと言い換えることもできます。
【例文】
・皆様もご存知の通り、この度本社に転勤となります。
・ご存知かもしれませんが、私は以前○○社に勤めておりました。
・すでにご存知とは思いますが、今月末で退職することになりました。
・ご存知とは思いますが、この度、人事部に異動することになりました。
ご存知でしたら
「ご存知でしたら」は、「もし知っていたら」という意味です。相手が知っているかどうかを確認した上で、相手に何かを要望する時に使います。
【例文】
・○○社の商品についてご存じでしたらお知らせください。
・もしこのアプリの使い方をご存知でしたらご教示ください。
・既にご存知でしたらご容赦ください。
返答するとき
「ご存知ですか?」と質問された時は、「存じております」「存じ上げております」と返答するのが適切です。知らない場合は、「存じておりません」「存じ上げておりません」となります。質問してきた相手が部下であれば、謙譲語で返す必要はないので「知っています」「知りません」と返答しても問題ないでしょう。間違っても「ご存知です」とは答えてはいけません。「ご存知」は尊敬語なので、「ご存知です」と答えてしまうと、自分に対して尊敬語を使っていることになります。誤った敬語を使っていると、「ビジネスマナーのを知らないんだな」とマイナスなイメージを与えてしまう可能性があるので、ビジネスシーンでは特に注意しましょう。
「ご存知」の類語【例文付き】
「ご存知」には言い換え表現や類語がありますので、紹介します。相手や場面によって使い分けましょう。
ご承知
「ご存知」と意味が似ている表現に「ご承知」があります。この二つの言葉の違いは、主語です。「ご存知」は尊敬語のため相手が主語の場合に使い、「ご承知」は自分が主語の場合に使われることが多いです。ビジネスシーンでもよく使われる「承知しました」が代表的なフレーズですね。ただし、「ご承知おきください」「ご承知の通り」のように相手が主語の場合にも使われます。この場合の「ご承知おきください」は、「あらかじめ知っておいてください」という意味があります。「ご承知」は「知っておいてくださいね」「理解していますよね」というニュアンスを含むため、やや押しつけがましい印象を与える可能性があります。目上の人に対しては使用を避けたほうがいいかもしれません。
【例文】
・ご承知おきください。
・ご承知の通り、○○社との契約が決まりました。
・時間の都合上、割愛しますことをご承知おきください。
・締め切りは○月×日となります。ご承知おきください。
ご周知
「ご周知」も「ご存知」と意味が似ている表現です。「周知」とは、「広く知ること」「広く知らせること」を意味します。「周知」に接頭語の「ご」をつけることで、「ご周知ください」のように敬語としても使うことができます。どちらも「知っている」という意味を含みますが、「ご存知」は特定の相手が知っているかどうかを指すのに対し、「ご周知」は情報を広く知らせてほしい、広く知れわたっている時に使います。つまり、意味は似ていますが、言い換えることはできないので注意が必要です。社内の規定が変わった時や新しいシステムが導入された時など、社内の人全員に知らせなければいけない場合は「周知」を使いましょう。
【例文】
・今週末の研修は、台風のため延期となりましたので、ご周知ください。
・明日の会議は第一会議室で行います。チームメンバーにもご周知ください。
・いくつか訂正箇所がございますので、関係者にご周知ください。
・来週までに研修の内容を周知する必要があります。
・新しいマニュアルを作成し、今月末までにあらためて周知いたします。
お聞き及び
「お聞き及び」は「ご存知」の類語の一つです。「すでに聞いて知っている」「前々から聞いている」ことを意味します。「聞き及び」に、接頭語「お」をつけることで丁寧さを強調しています。「ご存知」と意味や使い方もほぼ同じなので、言い換えることができます。
【例文】
・○○についてはお聞き及びでしょうか。
・お聞き及びかもしれませんが、今月末で東京へ転勤することになりました。
・すでにお聞きおよびのことと存じますが、先月から弊社の人事が変わりました。
「ご存知」の英語表現は?
最後に、「ご存知ですか」と「ご存知のとおり」の英語表現を紹介します。
Do you happen to know
「ご存知ですか」の英語表現です。質問をする際によく用いられる「Do you know」よりも丁寧な表現であり、「もしかしたら知っているかもしれない」というニュアンスが含まれます。見ず知らずの人に道を尋ねたり、ビジネスシーンでも使用可能です。「Do you happen to know」と同じ意味を持つ、より丁寧な言い方に「Would you happen to know」があります。目上の方に何かを尋ねる場合は、こちらの表現のほうが適しているでしょう。
【Do you happen to know~の例文】
・Do you happen to know where the reception is?
(受付はどこにあるかご存知ですか?)
・Would you happen to know her?
(彼女をご存知ですか?)
・Would you happen to know how to cancel?
(どうやってキャンセルをするのかご存知ですか?)
as you may know
「as you may know」は「ご存知の通り」の英語表現です。「ご存知の通り」の直接的な言い方は「as you know」ですが、先ほど説明した通り、これは相手がその事実を知っていることを前提とした言い方であり、知らない場合は失礼にあたる可能性があります。そのため、相手が知らない可能性があることを含めた「ご存知かもしれませんが」という意味あいの強い「as you may know」を使用したほうがビジネスシーンには適しているでしょう。
【as you may know~の例文】
・As you may know, Today’s meeting has changed from 18:00.
(すでにご存知かもしれませんが、本日の会議は18時からに変更になりました)
・As you may know,I will be in charge of this project starting next month.
(ご存知かもしれませんが、私が来月から始まるプロジェクトを担当することになりました)
まとめ
「ご存知」の意味や正しい表記、使い方などを紹介しましたが、いかがでしたか。ビジネスシーンでは「ご存知」の表記を使うのが一般的であることが分かりましたね。敬語の使い方や表記はなんとなくで使っている人も多いでしょう。しかし、正しい敬語を使うことはビジネスマナーの基本です。誤った敬語を使っていると「ビジネスマナーを知らないのかな」をマイナスなイメージを与えてしまう可能性もあるでしょう。敬語の正しい意味を知らずに使っていると、相手に不快感を与えてしまうこともあります。また、正しい敬語であっても使う場面や相手によっても失礼にあたることもあるのです。社会人の基本として、正しい敬語表現はしっかりとおさえておきましょう。