雇用保険に加入していることを証明する「雇用保険被保険者証」。しかし転職や離職の経験がないと受け取ることがないため、手元にない人は多いと思います。今回は「雇用保険被保険者証」について、その仕組みや役割、どんなときに必要になるのか、そしていつもらえるのか、もらってないときの対処法などを徹底解説していきます。転職をきっかけに「雇用保険被保険者証」について知りたい人は必見です!
目次
そもそも「雇用保険」とは?
労働者の福祉を守るための「雇用保険」
雇用保険とは、仕事がなくなり所得を失った際に、生活を安定させ再就職ができるよう支援するための失業給付などを支給するための保険です。
雇用保険は労働者自身で保険に入るか入らないかは決められず、就職すると強制的に加入させられます。なぜなら、失業して収入が無くなったしまうと、日々の生活を満足して送れないほか、次の仕事を決めるための就職活動自体にもお金が必要になるからです。そうした労働者の福祉を守るためにも「雇用保険」は必要なのです。
雇用保険に加入すると、保険料として毎月の給与の0.3%が給与から天引きされます。
例えば月の給与が20万円だった場合、そこから600円が給与から引かれ雇用保険料として収められます。
「雇用保険」の加入条件
失業した場合の給付金などを支給するためとはいえ、すべての労働者が加入できるわけではありません。雇用保険の加入には次のような条件があります。
・1週間の所定労働時間が20時間以上であること
・31日以上の雇用見込みがあること
・学生でないこと(例外あり)
1週間の所定労働時間が20時間以上であることというのは、休憩時間などを除いた純粋な労働時間です。例えば、週3日勤務で1日7時間という契約で働いていたとしても、1日1時間の休憩をするわけですから1週間の所定労働時間は18時間になります。この場合は雇用保険の加入対象外です。
また、雇用の際に契約書で交わされた所定労働時間が基準になるため、繁忙期のみ週20時間以上働いている場合も雇用保険の加入対象外です。契約書の所定労働時間が週20時間以上になれば、その変更時から雇用保険に加入することができます。
上記の条件を満たしていれば、正社員、派遣社員、アルバイト問わず雇用保険に加入可能です。雇用保険に加入している場合、毎月の給与明細から雇用保険料が引かれているため、そこで自分が加入しているかどうかを確認することができます。
ちなみに公務員は法律上、雇用保険に加入できないため、公務員をやめた場合は失業給付金とは別の内容で給付がされます。
在職中にはもらえない?「雇用保険被保険者証」の発行の流れと必要な場面とは
雇用保険被保険者証はいつもらえるのか?
労働者の福祉を守るために強制的に加入させられる雇用保険ですが、加入の手続きは雇い主がおこないます。そのため私たち労働者側に必要な手続きはありません。雇い主である事業主が雇用保険の加入申請手続きをおこない、最寄りのハローワークから会社へ従業員それぞれの「雇用保険被保険者証」が交付されます。
本来はここで会社から従業員に対して「雇用保険被保険者証」と「雇用保険のしおり」という案内が渡されます。しかし、紛失などを防ぐために多くは会社側が保管をしています。というのも、「雇用保険被保険者証」が必要になるのは退職後だからです。
では「雇用保険被保険者証」が必要になるのはどんなときなのでしょうか。
雇用保険被保険者証が必要な場面①:別の会社へ転職するとき
雇用保険の申請は雇い主である事業主がおこなうと解説しましたが、別の会社に転職する際も同様です。転職先の企業は雇用保険被保険者証を使って被保険者番号を確認し、転職者の雇用保険の申請をおこないます。そのため転職の際は、転職先企業から雇用保険被保険者証の提出を求められるでしょう。
雇用保険被保険者証が必要な場面②:教育訓練給付金の支給申請をするとき
失業をすると、必要手続きをおこなえば失業給付金が支給されますが、それとは別に教育訓練給付金というのを受けることもできます。これは看護師や調理師など専門性の高い職に就くための教育訓練講座を自己負担で受講したとき、適用条件を満たしていれば、その講座の受講料や入学料などの一部を国が負担してくれるというものです。
その教育訓練給付金の受給資格を満たしているかどうかの確認時や、支給の申請をおこなう際、雇用保険の被保険者期間が3年以上あるかどうか(初めて教育訓練講座を受講する人は1年以上)を確認するために、雇用保険被保険者証の提出が求められます。
雇用保険被保険者証が必要な場面③:老齢厚生年金を請求するとき
厚生年金は65歳から受給できますが、手続きをすれば60歳から特別支給の老齢厚生年金を受け取ることもできます。その際、年金を請求する人の月収によって年金額が決定することから、年金機構がその人の在職状況をハローワークに確認するため、雇用保険被保険者証の提出が求められます。
以上のことから、雇用保険被保険者証は在職中にはもらえず、退職時に会社から渡されることが多いのです。
雇用保険被保険者証には何が書いてあるのか?
転職時や離職時に手元にあることが多い「雇用保険被保険者証」ですが、どのような内容でどんなことが書かれているのか把握しておきましょう。
上の画像の右側が雇用保険被保険者証です。左側の雇用保険被保険者の資格を取ったことを通知する通知書と一緒になっています。会社からはこの紙が渡され、そして転職先企業にはこの紙を提出することになります。
では、記載内容を確認していきましょう。
①被保険者番号
これが雇用保険に加入していることを示す重要な番号です。4桁+6桁+1桁の合計11桁の数字で構成されています。
所属する会社ごとに番号が変わるわけではなく、雇用保険に加入し続ける限りずっと同じ番号です。この番号をもとに転職先企業は転職者の雇用保険の申請をおこないますし、ハローワークなどの行政機関はその人が雇用保険に加入しているかどうか、どのくらいの期間加入していたかを確認することができます。
ただし一度離職し雇用保険に7年間入っていないと、この番号がハローワーク側のデータから削除されてしまいます。その場合は、再就職先にて新たに雇用保険に加入し、新しい雇用保険の被保険者番号が発行されます。
②確認(受理)通知年月日
ハローワークで雇用保険の資格取得手続きが完了した年月日です。
③資格所得年月日
雇用保険の加入資格を得た年月日です。基本的には入社日、もしくは雇用契約の内容を変更した日になります。しかし仕事を辞めた場合、離職日から10日以内に雇用保険の資格喪失手続きを事業主がおこなわなければならないところ、それが遅れてしまっていたときは資格喪失手続き完了の翌日の年月日が記載されます。
④被保険者氏名
自分の名前が記載されています。
⑤生年月日
自分の生年月日が記載されています。
⑥事業所名略称
雇用保険の資格申請をおこなった事業所の名称が書かれています。転職する場合は、前職の会社名がここでわかるため、経歴を詐称してもここでバレてしまいます。
以上6点が雇用保険被保険者資格所得等確認通知書に書かれている主な項目です。
ちなみに、右側の雇用保険被保険者証には「被保険者番号」「被保険者氏名」「被保険者の生年月日」のみが記載されています。
雇用保険被保険者証が「ない」or「もらってない」場合に考えられる4つのこと
離職時に雇い主側から渡されることが多い雇用保険被保険者証ですが、もらっていない、もしくは手元にないという人もいるでしょう。その場合どんなことが考えられるのか、何をしなければいけないのか解説していきます。
①会社側の渡し忘れ
雇用保険被保険者証は企業側が保管していることが多いため、退職や転職をした際に手元にない場合は、まず前職の会社に連絡をしてみましょう。
ちなみに退職時に会社から渡される書類は次のようなものが挙げられます。
・年金手帳(会社が預かっていた場合)
・雇用保険被保険者証(会社が預かっていた場合)
・離職票(1と2セットで)
・健康保険資格喪失証明書
・厚生年金基金加入員証(基金に加入している場合)
・源泉徴収票
・退職証明書(請求があった場合)
②雇用保険の加入対象でない
雇用保険に加入するには「1週間の所定労働時間が20時間以上であること」「31日以上の雇用見込みがあること」「学生でないこと」などの条件がありました。退職時に雇用保険被保険者証を渡されなかった場合、いままでの雇用契約の条件が、雇用保険の加入条件を満たしていない可能性も考えられます。
前に勤めていた会社に連絡をしてみるのが第一ですが、連絡をして「加入対象でなかったので、雇用保険に加入していなかった」と言われた場合は雇用契約の内容も一緒に確認してみましょう。
③雇用保険に加入できていなかった
雇用契約の内容を確認し、雇用保険の加入対象であったにもかかわらず、事業主のミスで雇用保険に加入できていなかった場合は、さかのぼって雇用保険に加入することもできます。最寄りのハローワークに問い合わせると手続きができるので、連絡をしてみましょう。
④前職が公務員
前述したように、公務員は雇用保険に加入できません。そのため、公務員をやめて一般企業に転職する場合は雇用保険被保険者証を渡されることはありません。雇用保険被保険者証の提出を転職先企業に求められても、持っていないことを伝え、新しく雇用保険の加入申請をする必要があることも伝えましょう。
⑤単純に無くしてしまった
雇用保険被保険者証を自分で管理していた、もしくは退職してから長い年月が経ってしまい前職の会社から渡されていた雇用保険被保険者証を無くしてしまったということもあります。「雇用保険被保険者証を無くしたら、また新しく雇用保険に加入して新しい被保険者番号を発行しないといけないのか?」と考えるかもしれませんが、退職から7年以内であればハローワークで再発行ができます。雇用保険被保険者証が必要になったが無くしてしまった場合は、再発行手続きをおこないましょう。
再発行はどうする?「雇用保険被保険者証」
雇用保険被保険者証の再発行の仕方をご紹介します。
雇用保険被保険者証の再発行手続きの3つの方法
まず、再発行手続きは次の3つの方法があります。
①ハローワークの窓口でおこなう方法
②ハローワークに郵送しておこなう方法
③電子申請でおこなう方法
③の電子申請は、365日24時間受け付けているため非常に便利ですが、実印に相当する電子署名が必要であり、電子署名は事前に有料で電子署名の発行を受けなければいけません。電子申請をおこなう場合は、e-Gov電子政府の総合案内「雇用被保険者証の再交付の申請」を確認しましょう。
②のハローワークに郵送して再発行をおこなう方法は、簡易書留などの郵送費がかかる点、そして再発行された雇用保険被保険者証の到着まで4、5日ほどかかる点がデメリットです。しかし余裕をもって申請をすれば、直接ハローワークの窓口に行かなくても再発行ができるので便利な方法です。
①のハローワークの窓口でおこなう方法であれば、即日で雇用保険被保険者証の再発行ができます。ただし、公的機関ですから土日祝日はお休みです。平日しか窓口が開いていない点に注意しましょう。申請をするハローワークは事業所の所在地などは関係なく、最寄りのハローワークで対応できます。
雇用保険被保険者証の再発行に必要なもの
再発行手続きで必要なものは次の3点です。
・被保険者証再交付申請書
・本人確認書類
・印鑑
被保険者証再交付申請書はハローワークの窓口で入手することができますし、ネット上で事前にダウンロードすることも可能です。なお、申請書内に前職の「会社名」「所在地」「電話番号」「郵便番号」を記載する欄があるため、それらがわかるものを持っていくといいでしょう。
まとめ
「雇用保険被保険者証」について、無くしてしまった時に考えられること、そして再発行の仕方や雇用保険被保険者証の仕組みなどを解説してきましたが、いかがでしたか。転職の際には必ず必要になってくるものですから、在職中に事前に会社側に保管の有無を確認しておくといいかもしれません。労働者の福祉を守るための制度として作られている「雇用保険」ですから、その仕組みをしっかりと理解して、活用していきましょう。