取引先の目上の方からのメールに「どうぞよしなに」って書いてあるけど、「よしなに」ってなんだ?と思う方、多いのではないでしょうか。今回はビジネスシーンなどでときどき耳にする「よしなに」の意味やその使い方、類語などを解説していきます。なんとなく使っている方も、これを機会に正しい意味を知っておきましょう。
目次
「よしなに」の意味と歴史
「よしなに」の意味
「よしなに」は「良いように」「良い具合になるように」という意味をもつ副詞です。
丁寧で上品な印象から敬語のようにも感じますが、言葉自体は敬語というくくりではありません。漢字で「良しなに」とも表現されますが、一般的には「よしなに」とひらがなで表記することが多いです。
日本では古くから使われている言葉であり、江戸時代の文献にも出てきます。
例えば、浮世草子で有名な井原西鶴の『世間胸算用・二』では「十難を一つ一つよしなに言いなし、ここが大事の胸算用」と出てきます。また、浄瑠璃や歌舞伎の作者として知られる近松門左衛門の『心中刃は氷の朔日』という浄瑠璃では「国へはよしなに言い遣って」とあります。このように「よしなに」は古くから日常的に使われる言葉なのです。
「よしなに」は方言?その語源とは
まず語源としては古事記に書かれている神話なのではないかといわれています。
天照大神の孫にあたるニニギノミコトの妻であるコノハナサクヤヒメが三つ子を産んだ際、信濃の4人の県主が「お祝いのため三つ子のへその緒を祀らせてほしい」と頼みましたが、3つのへその緒に対して4人の県主であったため、コノハナサクヤヒメが「4人の信濃の県主で計らうように」と言って渡したという話です。この「4人の信濃の県主で計らうように」から、「よ」人の「しな」のの県主で計らうよう「に」となり、「良い具合になるように」の「よしなに」となったわけです。
また文法の視点から語源を紐解くと「良し+な(~のように)+に(なりの活用)」、もしくは「良い+しな(経過の意味)+に(なりの活用)」という成り立ちから来ているのではないかといわれています。
さらに日本固有の言葉である大和言葉ではないかともいわれています。
というのも、「お力添え」や「お手すきのときに」「おおむね」など柔らかい印象のある大和言葉の響きに「よしなに」も近いからです。
こうした語源や古い言葉である印象から、「よしなに」は何となく京都や関西の方言かなと思うかもしれませんが、方言ではありません。現時点ではっきりしていることは、江戸時代の文献に出てくるほど古くから使われているということだけです。
「よしなにどうぞ」ってどういうこと?「よしなに」の使い方
「よしなに」の使い方①:お願いをする
相手に何かをしてほしいときに、具体的にこちらからあれこれ指示を出すのではなく、なんとなく察してもらいながら行動してほしい気持ちを伝える使い方です。その場や人間関係を乱さずに何かを進めたがる日本らしい表現ですね。
基本的に「よしなに」のあとに動詞などがつきます。例えば、「取り計らう」に「よしなに」がついて、「よしなに取り計らう」であれば「上手い具合に処理する」となり、「する」に「よしなに」がついて、「よしなにする」であれば「良い具合にする」という意味になります。なんとなくいい感じにお願いしたいときは「よしなに」+「お願いします」で「よしなにお願いします」です。
【例文】
・理事会でよしなにお取り計らいください
・この案件はよしなにお願いします
・あとはよしなにしてください
・よしなに頼みます
・よしなにお伝えください
「よしなに」の使い方②:挨拶
「よしなに」は副詞のため、文法的には動詞や形容詞についてそれらを修飾する働きがありますが、「よしなにどうぞよろしくお願いします」という挨拶の定型文としても使われています。特にメールや手紙などで使われることが多いです。意味としては「今後とも良い関係でよろしくお願いします」となるでしょう。
また「よしなにどうぞよろしくお願いします」を省略して「よしなにどうぞ」となったり「どうぞよしなに」、「何卒よしなに」「これからもよしなに」になったりもします。言い切らずに余韻を残すことで、言葉としての美しさが出てきます。メールや手紙の文末に書いたり、道端でばったり会ってすぐに別れるときに使うことが多いです。
いずれにしても、「これからもどうぞよろしくお願いします」という挨拶の意味があります。
【例文】
・よしなにどうぞ
・何卒よしなに
・これからもよしなに
・どうぞよしなに
「よしなに」をマスターする!場面別の使い方・返し方
①よしなにどうぞ・どうぞよしなにお願いします
挨拶の1つです。「良い具合にお願いします」「どうぞよろしくおねがいします」という意味から、初対面の挨拶や自己紹介などで使えます。特にこれから良い関係を作りたいという思いを込めたいときに、使える言葉です。返し方としては「こちらこそ、どうぞよろしくお願いします」と言えばOKです。
【例】
A:〇〇と申します。どうぞよしなにお願いいたします。
B:こちらこそ、どうぞよろしくお願いします。
②よしなにする・よしなにしてください
「よしなにする」は「良い具合にしてください」という意味です。そのあとの行動は自分の判断でしてほしいとき、自由に過ごしてほしいときなどに使える言葉です。返し方は「わかりました」と了解の意を伝えたり、「よしなに」という相手を思いやる言葉に対して「お気遣いいただきありがとうございます」と伝えるとよいでしょう。
【例】
A:あとは、よしなにしてください。
B:はい。わかりました。
【例】
A:よろしければ、このあとはよしなにしてください。
B:お気遣いいただきありがとうございます。
③よしなにお取り計らう・よしなにお取り計らいください
「取り計らう」とはビジネスシーンでよく使われる言葉で、「物事が上手く進むように対応する」という意味です。そのため「良い具合に物事が進むように対応してください」という意味になります。取引先などに具体的な話をした後の締めの言葉などで使われます。返し方としては「よしなにしてください」と同じで、「わかりました」や「お気遣いいただきありがとうございます」と言うと良いです。
【例】
A:どうぞよしなにお取り計らいください。
B:承知いたしました。
④よしなにお伝えください
直接の意味で考えると「良いようにお伝えください」となりますが、つまり「よろしくお伝えください」と同じ意味です。その場にいない人に向けて、挨拶をしたいときに代わりに伝えといてくれというニュアンスで使います。返し方としては了解の意と、きちんと伝える旨を言うと自然です。
【例】
A:〇〇様に、よしなにお伝えください。
B:かしこまりました。〇〇に申し伝えます。
⑤よしなに頼む
「良い具合に頼む、対応してくれ」という意味があります。特に「あなたをあてにしているからよろしく頼むよ」という応援の意味が込められていることが多いでしょう。返し方としては「かしこまりました」と相手の期待に沿う対応ができるよう、気合を入れて返事をするといいですね。
【例】
A:午後からはサポートできないけれど、よしなに頼むよ。
B:かしこまりました!
⑥ひとつよしなに
「ひとつどうかよしなによろしくお願いします」を省略した言葉です。そのため意味としては挨拶としての「よしなにお願いします」と同じです。省略をしているので、軽い挨拶になります。
また「ひとつどうか」の部分で、話の流れによっては必死に相手に対してお願いをしているニュアンスもあります。そのため返し方はその時次第によって変わるでしょう。
【例:挨拶の場合】
A:〇〇です。ひとつよしなに。
B:こちらこそよろしくお願いします。
注意点はココ!「よしなに」を使うときのポイント
①敬語ではない
「よしなに」は丁寧な印象はありますが、敬語ではありません。
そのため、挨拶に「よしなに」を付けたからといって、目上の人に対して使えるかどうかは、その人との関係性や状況によって変わってきます。もし使う場合には、「どうぞよしなに」などの余韻を持たせた省略の形ではなく、「どうぞよしなによろしくお願いいたします」や「よしなにお伝えいただけますと幸いです」と最後まできちんと伝えましょう。
②具体的な指示が必要な時は使わない
「よしなに」は「良い具合に」「良いように」という意味ですが、「良い具合」というのは人によって異なります。そのため、具体的にどうしてほしいのか明確な指針があるときには使わないようにしましょう。
よくある例として、会社での上司からの指示が挙げられます。例えば「明日の会議のための資料、よしなに作っておいて」と言われた場合、いつまでに、どんな内容で、何を目的になど具体的なイメージが湧きませんよね。上司が思う「良い具合」と自分が思う「良い具合」が違っていたら、せっかくできた資料も無駄になってしまいます。
相手の状況や立場にゆだねている点では思いやりのある言葉ですが、具体的に効率よく物事を進めて利益を出すことを目的としたビジネスシーンでは、あまり向かない言葉です。
もし使うとしても、具体的な話をした後に「じゃあよろしくね」という意味で、「あとはよしなに頼むよ」と挨拶のような形で使うといいかもしれません。
③伝わらない場合もある
「よしなに」が曖昧な表現であるということの前に、そもそも「よしなに」の意味を知らない人も多いため、特に若者を中心に伝わりにくい言葉です。「よしなに計らって」や「あとはよしなに」と言われても上手く伝わらない可能性もあります。その点も考慮して使っていきましょう。
④公式の文章や不特定多数に向けた文章では使わない
「よしなに」は挨拶の意味もありますが、会社から発行する文章や不特定多数に向けた文章の挨拶としては使いません。「どうぞよしなによろしくお願いいたします」ではなく、「何卒よろしくお願いいたします」がベストです。
「よしなに」の類語・言い換え
①適宜(てきぎ)
「適宜」とは、その状況によって適切な行動をとること、各自の判断で行動をとることを意味します。「よしなに」の相手の判断に任せて、良い具合に何かをお願いするときの言い換えとして使えます。「よしなに」よりもビジネスシーンでよく使われ、世代問わずに意味が伝わる言葉です。
例)細かいところは適宜ご判断をお願いいたします。
②適切に
状況や目的にぴったりとあてはまるように、という意味です。「よしなに」よりもそのとき、その状況にあったことをやってほしいという意味が強いです。
例)適切に対処ください。
③しかるべく
適当に、良いように、適切なという意味の言葉です。相手に察してもらう「よしなに」よりもより具体的に「適切な」という意味が出てきます。
例えば「よしなにお話したいです」であれば「良い具合に話したい」というざっくりとした伝え方になりますが、「しかるべき立場の人とお話したいです」にすると、はっきりと適切な方と話をしたいことがわかります。
④あんじょう
関西でよく使われている言葉で、「味よく」という言葉から変化してできました。意味としては具合よく、上手くとなり、「よしなに」と同じ言葉です。
例)あんじょう頼みますね。
「よしなに」という意味の英語はあるのか?
自分からはあれこれ言わずに相手に判断をゆだねることで、思いやりを表現する日本の文化ですが、英語圏の文化でははっきりと自分の気持ちを伝えることが大切です。そのため「よしなに」に当てはまる英語ということになると、「適切に」や「適宜」に当てはまる英語の紹介になります。
それよりも「よしなに」を含んだ文章で、自分は結局何を相手に伝えたいのか考え、それを英訳したほうがいいでしょう。
ちなみに「適切に」や「適宜」に値する英語は次のとおりです。
【適切に・適宜】
appropriately、properly、fittingly、suitably
【適宜確認します】
I’ll appropriately confirm it.
ビジネスシーンで「よしなにお願いします」のようなことを言いたいのであれば
【一緒に仕事をするのを楽しみにしています】
I’m looking forward to working with you.
がいいでしょう。
まとめ
「よしなに」の意味や使い方、使う際の注意点、類語などを紹介してきましたが、いかがでしたか。
柔らかく丁寧な印象のある「よしなに」は、角を立てずに相手に何かをお願いするときに便利な言葉です。人間関係を良好にしたいという気持ちで、使うべきシーンを考えながら、ぜひ使ってみてください。