社会に出る上で必須になるスキルの1つに「敬語を正しく扱う能力」があります。学生の間は先生や先輩に向けた軽い敬語しか使ったことがなくても、いざ社会に出ると年齢や立場が遥かに上の人とビジネスのやりとりをしなければなりません。敬語を使おうとするあまり、「二重敬語」という誤った日本語表現を使っているかもしれません。この記事では二重敬語とは何か、二重敬語の具体例と対処法を解説していきます。
目次
【新社会人必見】二重敬語とは
二重敬語とは読んで字の如く、敬語が複数重なってしまうことを指します。例えば「朝食はお召し上がりになられましたか」という表現ですが、何か不自然に感じませんか?それもそのはず、「召し上がる」という敬語と「られる」という敬語が重なった表現だからです。このように敬語が重なることで不自然な表現になってしまうことを二重敬語と言います。
二重敬語のよくあるパターンと対策
二重敬語にはよくあるパターンがあります。ここからは特にビジネスシーンで使われがちな二重敬語と対策をご紹介します。
お(ご)〜になる+れる(られる)
二重敬語でよくあるパターンは「お(ご)〜になる+れる(られる)」です。尊敬語と尊敬語が重なっているため二重敬語になります。
例えば上記で例に挙げた「お召し上がりになられますか?」は正しい敬語に直すと「召し上がりますか?」とシンプルな表現になります。
敬語+させていただく
「敬語表現〜させていただく」という表現も二重敬語に含まれます。下記のフレーズを見てみましょう。
「昼食をちょうだいさせていただきました」という表現ですが、どう考えても周りくどい敬語表現ですよね。これは「昼食をいただきました」または、「昼食をちょうだいしました」とシンプルに表現することができます。
余計に「お(ご)」を付けてしまう
すでに敬語になっている表現に対して、余計に「お(ご)」を付けてしまうのも二重敬語になるNGパターンです。例えば「ご拝聴する」という表現は、本来「拝聴する」という言い方が適切です。余計に「ご」を付与してしまっていることがわかりますね。
謙譲語+させていただく
謙譲語に「させていただく」というフレーズを付与するのも二重敬語に該当します。「いただく」というフレーズが謙譲語なので、さらに謙譲語と繋げてしまうのはNGです。例えば「申し上げさせていただきます」や「参らせていただきます」というフレーズは少し不自然な日本語に感じませんか?それもそのはず、謙譲語に謙譲語を重ねてしまっているからなのです。
役職+敬称
あなたが会社に属している方であれば、必ず社長や部長、課長といった役職に就いている方が組織内にいるはずです。そういった方に向けて「社長様」「社長さん」などと敬称をつけるのは二重敬語になります。実は社長や部長といった役職には敬意表現が含まれています。なので役職名に敬称を付けるのは間違いとなります。役職付きの方には「社長」もしくは「(苗字)社長」と敬意表現が重ならないようにしましょう。
よくある二重敬語一覧
下記の表に二重敬語になりがちなフレーズを一覧にまとめました。上記の3パターンに当てはまる例が何個もありますので、ぜひ日頃の自身の発言を思い返しながら見てみてください。
二重敬語 | 正しい表現 |
おっしゃられた | おっしゃった |
お客様がお見えになられました | お客様がお見えになりました |
ご連絡させていただきました | ご連絡いたしました |
店内でお召し上がりになられますか | 店内で召し上がりますか |
資料はお読みになられましたか | 資料はお読みになりましたか |
昼食をちょうだいさせていただきました | 昼食をいただきました昼食をちょうだいしました |
本社へ伺わせていただきます | 本社へ伺います |
お帰りになられました | お帰りになりました |
おいでになられました | おいでになりました |
お越しになられました | お越しになりました |
社長(会長、部長、課長、店長)様 | 社長(会長、部長、課長、店長) |
二重敬語を避けるには敬語の種類に着目
普段何気なく使っている言葉が知らず識らずのうちに二重敬語になっていることはよくあります。大学で敬語に関する授業はほとんどないため、ほとんどの方が中学、高校で敬語を教わってそれから触れていないのではないでしょうか?ここからは改めて尊敬語、謙譲語、丁寧語の3種類をおさらいしておくことで、二重敬語にならないような言葉選びをできるようにしましょう。
尊敬語(そんけいご)
尊敬語は相手を敬い、目上の方を立たせることで敬意を表す言葉です。「先生が仰った」「社長がお見えになる」など、自分より立場の上の方(家族、親戚以外)を敬う敬意表現です。「ご覧になる」「お見えになる」「お聞きになる」など「お(ご)〜になる」の形に当てはまる言葉は全て尊敬語です。先述の通り、このフレーズの後に「れる(られる)」を付けてしまうと二重敬語になるのでNGです。
謙譲語(けんじょうご)
謙譲語は尊敬語とは逆で、自分の立場を下げる(へりくだる)ことで敬意を表す言葉です。相手が目上の人で自分が主語の場合や、自分の家族、親戚が主語の場合に使います。例えば「参る」「申す」「拝聴する」などのフレーズです。こう文字にしてみると、確かに自分が主語の場合に使われる敬語ばかりですよね。
丁寧語
丁寧語は最も身近な敬意表現です。です・ます・ございますを用いるだけで、どのタイミング、どの相手にも敬意を表すことができます。「します」「思います」「行きます」「左様でございます」などはその代表例です。ただ尊敬語、謙譲語と比較するとどうしても敬意の度合いが低くなってしまいます。社長や会長など、立場が圧倒的に上の方には尊敬・謙譲語を優先的に使いましょう。
必見!3種の敬語を使い分け
上記にて、相手を立たせることで目上の方を敬う尊敬語、自分を下げることで相手に敬意を伝える謙譲語、時と相手を選ばずに使える丁寧語を紹介しました。3種類の敬語があるということは言葉1つとっても3種類の敬語に派生するということです。とても覚えきれないですよね。そこでビジネスシーンでよく使われる動詞を下記の表にまとめてみました。左から単語の基本形、尊敬語の言い換え、謙譲語の言い換え、丁寧語の言い換えという順番で見ていってください。尊敬語は「お(ご)〜なる」、謙譲語はへりくだる、丁寧語はです・ます、など法則性が見つかるはずです。なお、後半からは尊敬語と謙譲語のある名詞についてもまとめていますが、丁寧語に該当する言い換えはないので「該当なし」と記載しています。
基本形 | 尊敬語 | 謙譲語 | 丁寧語 |
使い方 | 目上の方を立たせる | 自分がへりくだることで相手を立たせる | です・ます・ございますを使う。相手を問わない |
する | なさる、される | (自分から行う場合)いたす(相手から許可を受けた合)させていただく | します |
行く | いらっしゃる、おいでになる | 参る、うかがう | 行きます |
来る | おいでになる、見える、いらっしゃる、お越しになる | 参る、伺う | 来ます |
知る | お知りになる、ご存じだ | 存じる、存じ上げる、承知する | 知っています |
言う | おっしゃる、言われる | 申す、申し上げる | 言います |
食べる | 召し上がる、おあがりになる | いただく、頂戴する | 食べます |
聞く | お聞きになる | うかがう、拝聴する | 聞きます |
見る | ご覧になる | 拝見する | 見ます |
読む | お読みになる | 拝読する | 読みます |
思う | お思いになる、おぼし召す | 存じる、拝察する | 思います |
わかる | おわかりになる、ご理解いただく | かしこまる、承知する | わかりました |
伝える | お伝えになる | 申し伝える | 伝えます |
考える | お考えになる、ご高察なさる | 検討いたします、拝察する | 考えます |
与える | お与えになる、くださる | 差し上げる | あげます |
受け取る | お受け取りになる | 賜る、頂戴する、拝受する | 受けとります |
待つ | お待ちになる、お待ちくださる | お待ちする | 待ちます |
買う | お買いになる、お求めになる | 買わせていただく | 買います |
いる | いらっしゃる、おいでになる | おる | います |
会う | 会われる、お会いになる | お目にかかる | 会います |
利用する | ご利用になる | 利用させていただく | 利用します |
座る | お座りする、お掛けになる | 座らせていただく | 座ります |
帰る | お帰りになる、帰られる | おいとまする | 帰ります |
会社 | 貴社(きしゃ) 御社(おんしゃ) | 弊社(へいしゃ) | 該当なし |
店 | 貴店(きてん) | 弊店(へいてん) | 該当なし |
銀行 | 貴行(きこう) | 弊行(へいこう) | 該当なし |
新聞 | 貴紙(きし) | 弊紙(へいし)・小紙(しょうし) | 該当なし |
家 | 御宅(おんたく) | 拙宅(せったく) | 該当なし |
学校 | 貴校(きこう) | 弊校(へいこう) | 該当なし |
地位 | 貴職(きしょく) | 小職(しょうしょく) | 該当なし |
雑誌 | 貴誌(きし) | 弊誌(へいし)・小誌(しょうし) | 該当なし |
目上の方に使ってはいけない敬語もある
敬語の難しいところは、言い方は丁寧でも、目下から目上の人へ使うと失礼に当たる言葉があることです。例えば「ご苦労様です」という敬語は尊敬語の”ご”が付いているのにどこが失礼なの?と思うかもしれません。意味としては「相手の苦労を労うこと」なので、目上の方に使うのは失礼なのです。この場合は「お疲れ様です」と表現します。
上記のように、「目上の人に使えないなんて知らなかった!」という敬語表現はまだまだありますので、特に使われがちな表現を下記にまとめました。ぜひ参考にしてください。
目上の人に使う言葉 | 目下の人に使う言葉 |
お疲れ様です | ご苦労様です |
お供させていただきます | ご一緒します |
大変勉強になりました | 大変参考になりました |
承知しました | 了解しました |
容認されている二重敬語の表現
実は世間に浸透しすぎて容認されている二重敬語のフレーズがあります。文字にしてみると「たしかによく聞くなあ」と感じることでしょう。下記の表現は二重敬語ですが、そこまで神経質にならなくても大丈夫です。
お召し上がりになります。
お召し上がりになりますは、尊敬語の「お〜なる」と尊敬語の「召し上がる」が組み合わさった言葉です。尊敬語ですので、自分を主語にしないように気をつけましょう。
お伺いします。
お伺いしますは、接頭語の「お」に謙譲語の伺う、丁寧語の「します」が組み合わさっています。普段何気なく使っている「お伺いします」というフレーズは、実は二重敬語だったのです。もちろんこのフレーズは謙譲語の伺うが主体なので、主語は必ず自分または自分の家族、親戚になるよう心がけましょう。
ご覧になっていらっしゃる
尊敬語の「ご覧になる」と尊敬語の「いらっしゃる」が組み合わさった「ご覧になっていらっしゃる」という表現。これは二重敬語だろと思う方も多いでしょう。実は「て」は接続助詞なので敬語連結という正しい敬語になるのです。
まとめ
いかがだったでしょうか?二重敬語とは文中に複数の敬語を重ねてしまうことで、不適切な敬意表現になってしまう敬語のことを言います。「お帰りになられました」や「お見えになられました」など、知らない内に二重敬語になってしまう場合があります。基本的に「お(ご)〜なる」という尊敬語のパターンで二重敬語になる傾向があります。上記の場合は「れる・られる」といった余計なフレーズを付けないことを意識するだけで二重敬語を避けることができるので、ぜひ意識してみてください。
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