派遣社員として仕事をしたことがある方、もしくはこれから派遣社員として働くことを考えている方は、一度は抵触日という言葉を耳にしたことがあるでしょう。
抵触日とは、派遣期間制限が切れた翌日のことを意味します。
今回の記事では、この抵触日が設けられている理由や、抵触日以降はどうしたらいいのかを説明していきます。
派遣として働くのであれば、可能な限り不安や疑問点は解消して気持ちよく仕事をしたいですよね。
ぜひ本記事を参考に、派遣の抵触日について理解を深めてくださいね。
目次
派遣の抵触日とは?
2015年に施行された労働者派遣法において、同一の事業所において「3年を超えて働くことを禁ずる」という大きな改正がありました。
平成27年労働者派遣法の改正について 派遣労働という働き方、およびその利用は、臨時的・一時的なものであることを原則とするという考え方のもと、常用代替を防止するとともに、派遣労働者のより一層の雇用の安定、キャリアアップを図るため、労働者派遣法が改正されました(「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律等の一部を改正する法律」平成27年9月11日成立、平成27年9月30日施行) 出典:厚生労働省|平成27年労働者派遣法の改正について |
いわゆる「3年ルール」というもので、抵触日はこの3年という派遣期間の制限を過ぎた翌日のことをさします。
たとえば、2022年9月1日に派遣で稼働したスタッフの場合、抵触日は2025年9月1日となります。抵触日をむかえたらその派遣スタッフは同じ組織内で働き続けることはできません。
派遣に抵触日が設けられているのはなぜ?
なぜ、派遣スタッフには抵触日というものが存在するのかについて説明していきます。
結論からいうと、派遣スタッフは「派遣労働をあくまで臨時的・一時的なもの」とみなされているからです。
正社員は安定した雇用やキャリア形成がある程度保証されていますが、派遣スタッフのことは法律で「臨時的・一時的な働き方」として位置づけることを原則にしています。
ですから、正社員としての安定した雇用が「安価でいつでも雇用の調整ができるもの」として気楽に派遣に置き換わることがないように抵触日を設けているのです。
ただし、例外として抵触日がない派遣の契約もあります。
抵触日がない人(=派遣期間制限を受けない人) いわゆる「26業務」((1)専門的な知識等が必要な業務、(2)特別の雇用管理が必要な業務であって、当該業務に係る労働者派遣が労働者の職業生活の全期間にわたる能力の有効発揮及び雇用の安定に資する雇用慣行を損なわないと認められるもの)有期プロジェクト業務(事業の開始、縮小又は廃止等のための業務であって一定の期間内に完了するもの)日数限定業務(1か月間の就業日数が、派遣先の通常の労働者の所定労働日数より相当程度少なく且つ10日以内のもの)産前産後休業、育児休業等を取得する労働者の業務介護休業等を取得する労働者の業務 出典: 厚生労働省|派遣受入期間の制限について |
このように、派遣元と無期雇用契約を結んで雇用が安定している場合や、安定した雇用の代替とならないことが前提の業務には派遣期間に制限がありません。
これら派遣期間制限の対象外となる労働者には、もちろん「抵触日」もありません。
事業所単位の抵触日
事業所単位の3年をカウントする方法は、「初めてその事業所に派遣社員を受け入れた日」をスタート(起算)とした3年です。この「事業所単位の3年」は延長が可能。
延長するためには、派遣先企業が過半数の労働組合(労働組合がなければ過半数の代表者)に対して意見聴取を行うことで延長されることになります。
個人単位の抵触日
個人単位の3年をカウントする方法は、「該当する派遣社員をその事業所に受け入れた日」をスタート(起算)とした3年です。
事業所とは異なり、この「個人単位の3年」は延長することはできません。
この「個人単位の3年(抵触日)」は派遣社員のその後の働き方に大きく影響します。
抵触日をむかえた派遣社員への影響
それでは抵触日をむかえた派遣社員はクビになってしまうのか、失業の保証はないのかなど、気になるところですよね。
ここからは抵触日をむかえた派遣社員への影響を解説していきます。
1.派遣先企業での直接雇用
抵触日を迎えた派遣社員は、派遣社員という雇用形態のままでは、同じ組織内で続けて働くことはできません。
そのため基本的には個人抵触日を迎えた派遣社員は、次の2つの選択肢があります。
- 派遣先での直接雇用
- 派遣会社の無期雇用
どちらも派遣社員として働いていた派遣先企業でそのまま働ける選択肢となり、ずっと働いてきた派遣先でより安定した働き方ができるという、派遣法に準じた選択肢なわけです。
2.同じ派遣先の別の部署で働く
派遣社員が同じ派遣先企業で働き続けたい場合、同じ企業内の別の課や部署に変われば継続して働き続けることができます。
たとえば、株式会社ABC 経理部で働いていた派遣社員が、引き続き株式会社ABCで働くためには、総務課や人事部など、課や部署を変えて働かなければなりません。
3.別の派遣先企業で働く
抵触日をむかえた後は別の派遣先企業で働く方法もあります。
同じ派遣先でも、課や部が変わることでまったく違う業務内容で働く可能性もあがります。
そのため、それまでに培ったスキルや経験を活かせないこともあるので、別の派遣先企業でキャリアを積んでいくのもひとつの選択肢です。
4.派遣元企業での無期雇用
一定の条件をクリアすることで派遣元企業で無期労働契約に切り替えることができれば、同じ派遣先企業で働き続けることができます。
その条件とは以下のいずれもクリアすることです。
- 派遣元企業での雇用期間が通算5年以上であること
- 派遣社員自身が希望していること
この方法は、派遣元企業での雇用期間が通算で5年を超える場合に「無期転換ルール」が適用されることが関係してきます。派遣元企業での雇用期間が通算で5年を超えていて、かつ引き続き同じ派遣先企業で勤務したい場合は、派遣元企業での無期雇用が可能かどうか確認してみてください。
無期転換ルールとは労働契約法の改正により、同一の使用者(企業)との間で、有期労働契約が更新されて通算5年を超えたときに、労働者の申込みによって無期労働契約に転換されるルールです。厚生労働省の以下のページを参考にしてくださいね。
5.派遣先企業で直接雇用される
派遣先企業から直接雇用の申し出があった場合は、直接雇用として働くことができます。
ただし、直接雇用は正社員とは限りません。
契約社員やアルバイト、パート社員なども含めて、雇用条件は派遣先企業と直接契約することになります。
そのため、待遇が必ずしも派遣社員時よりもよくなるとは限りません。しっかりと派遣先企業と契約内容の確認、すり合わせをしましょう。
派遣先企業としての3つの注意点
ここでは派遣社員が抵触日をむかえた際、派遣先企業は何をすべきか紹介していきます。
1.事業所抵触日の通知
抵触日については、必ず派遣先企業から派遣会社に通知する必要があります。
「3年ルール」という言葉でお伝えした通り、労働者派遣法により、同じ事業所が派遣労働者を受け入れられる期間には原則3年という制限があります。
この抵触日の通知時期や方法、記載すべき内容は次のとおりです。
時期新たな派遣契約を締結するに際して、あらかじめ、派遣先企業は派遣元に対して、事業所抵触日の通知をおこなう必要があります。※派遣元は事業所抵触日通知がなければ派遣契約の締結をおこなうことができません。 方法次のいずれかの方法により実施する必要があります。書面の交付書面のデータを電子メールに添付して送信電子メールに記載して送信 内容次の内容を記載することが必要です。事業所名事業所所在地事業所抵触日 |
前述のとおり同一事業所の派遣受入可能期間は原則として3年となっていますが、受入期間終了の1ヶ月前までに、事業所ごとの過半数労働組合などに意見聴取をしてOKであれば、さらに最長3年まで派遣受入期間を延長することが可能です。
意見聴取を経て派遣受入期間を延長する場合、派遣先企業は派遣会社に対して新たな事業所抵触日を書面や電子メールなどで通知しなければなりません。
抵触日を通知する書面は決められたフォーマットがないので、ネットでサンプルをダウンロードするなどで作成するとよいでしょう。
令和3年9月16日(派遣元)〇〇労働局株式会社 御中 (派遣先)株式会社ABC氏名〇〇〇〇 派遣可能期間の制限(事業所単位の期間制限)に抵触する日の通知 労働者派遣法第26条第4項に基づき、派遣可能期間の制限(事業所単位の期間制限)に抵触することとなる最初の日(以下、「抵触日」という。)を、下記のとおり通知します。 記 1 労働者派遣の役務の提供を受ける事業所株式会社ABC 東京都港区〇〇 2 上記事業所の抵触日令和4年9月1日 3 その他事業所単位の派遣可能期間を延長した場合は、速やかに、労働者派遣法第40条の2第7項に基づき、延長後の抵触日を通知します。 (注)以下の法第40条の2第1項各号に掲げる場合は、期間制限の例外となり、抵触日通知は不要です。 ① 無期雇用の派遣労働者を派遣する場合② 60歳以上の派遣労働者を派遣する場合③ 有期プロジェクト業務及び日数限定業務に派遣する場合④ 産前産後休業及び育児休業を取得する労働者の業務に派遣する場合⑤ 介護休業等を取得する労働者の業務に派遣する場合 (注)事業所の定義・ 工場、事務所、店舗等、場所的に独立していること・ 経営の単位として人事・経理・指導監督・働き方などがある程度独立していること・ 施設として一定期間継続するものであることなどの観点から、実態に即して判断されます。※雇用保険の適用事業所に関する考え方と基本的には同一です。 出典:厚生労働省 東京労働局|労働者派遣事業に係る契約書・通知書・台帳関係様式例 |
2.事業所単位の派遣期間を延長
企業側が事業所単位の派遣期間を延長したいケースもあるでしょう。
その場合、抵触日の1カ月前までに意見を聴取することで延長が可能です。
意見の聴取先は、該当する事業所の過半数の労働組合となっており、もし労働組合がない場合は、過半数の代表者が対象になります。
本社で延長手続きを一括では対応できないこともあるので、事業所が支店や営業所ごとにある場合は、意見聴取は各支店、営業所ごとに行う必要があります。
適切に意見聴取が行われていない場合には、派遣期間制限が延長されません。
なお、延長手続きには制限はありません。
そのため、意見聴取による延長手続きを行い続けることで、派遣会社から派遣社員を派遣し続けることは可能です。
3.抵触日以降も同じ派遣社員を受け入れたい
事業所側が抵触日以降も同じ派遣社員を受け入れたい場合は、派遣社員に対して直接雇用の申し込みを行う必要があります。
これは、派遣社員としてではなく、直接雇用=自社の社員として受け入れることを意味しています。
前述したとおり、直接雇用は正社員だけではありません。
契約社員やパート社員も雇用形態に含まれるため、対象となる派遣社員の希望を聞いて、双方が納得する形で契約締結することが重要です。
まとめ
2015年に労働者派遣法が改正されたのをきっかけに耳にする機会が増えてきた「派遣の抵触日」。
今回の記事では、その意味や設けられた理由などを説明してきました。
改正労働者派遣法によって派遣社員は業種にかかわらず、同じ組織で派遣社員として働ける期間は3年間と期限が決められました。
抵触日とは、その派遣期間が切れた翌日のことです。
抵触日をむかえた後は、同じ組織で働き続けることができなくなるので、あらかじめ派遣期間が終了したあとの働き方やキャリアプランについて考えておく必要があります。
必要以上に不安がることはありませんが、1人で悩まずに派遣会社の担当に相談するのも1つの方法です。
3年後を見据えたキャリアプランだけでなく、あなたにあったワークスタイルも一緒に考えてくれますよ。