派遣社員として働いていると「抵触日」という言葉を見聞きしたことはあるでしょう。
そこで本記事では、抵触日とは何か、あわせて抵触日に関する3年ルールについて解説していきます。
今回の記事を読めば、派遣の抵触日について基礎的な知識が理解できるだけでなく、派遣社員の方は自分の仕事や今後の働き方ついても知ることができます。
ぜひ参考にしてくださいね。
目次
抵触日とは派遣期間の制限を過ぎた最初の日
派遣という働き方は短期的かつ一時的なものであるという考え方から、代替要因を獲得することを防ぐとともに、派遣スタッフの安定した雇用と将来のキャリアアップを図ることを目的に労働者派遣法が改正されました。
この法律は2015年9月30日から施行されています。
この労働者派遣法の大きな改正点のひとつとして、同じ事業所で3年を超えて働くことを禁止するという「3年ルール」が生まれました。
この同じ事業所という定義は、同じ企業の中でも別の課や部署であれば別の職場とみなされます。つまり、同じ事業所の別の課や部署に派遣されることは認められるということです。
この派遣期間が切れた翌日のことを「抵触日」といい、この抵触日を超えて派遣スタッフを受けれ続けてしまうと法律違反となってしまいます。
派遣の抵触日は「就業条件明示書」に記載されている
一般的に派遣会社と派遣社員は、抵触日の記載された就労条件明示書で双方派遣契約を結びます。
個人で派遣スタッフとして働く期間制限の場合、派遣社員は同じ組織で働けるのは3年と決められているので、その3年が過ぎた次の日を抵触日として記載。
同一の組織の基準は「課」の単位で、同じ企業内でも違う課やグループであれば、就業が可能という意味です。
参考:モデル就業条件明示書
派遣先企業が対応すべき内容である事業所抵触日を通知するタイミングですが、派遣会社と派遣契約を結ぶ前に、あらかじめ派遣会社に対しては事業所抵触日を通知しなければなりません。この抵触日の通知時期や方法、記載すべき内容は次のとおりです。
時期新たな派遣契約を締結するにあたってあらかじめ、派遣先企業は派遣元に対して、事業所抵触日の通知をおこなう必要があります。なお、派遣元は事業所に対する抵触日の通知がなければ、派遣契約の締結をおこなうことはできません。 方法次のいずれかの方法により行う必要があります。 文書による書面の交付書面をPDFなどデータ化したうえで電子メールに添付して送信電子メールに必要事項を記載して送信 内容次の内容を記載することが必要です。事業所名事業所所在地事業所抵触日 |
なお、抵触日を通知する書面は決められたフォーマットはありません。
インターネットでサンプルをダウンロードするなどで作成するとよいでしょう。
令和3年9月16日(派遣元)〇〇労働局株式会社 御中 (派遣先)株式会社✕✕✕✕氏名 派遣花子 派遣可能期間の制限(=事業所単位における期間制限)に抵触する日の通知 労働者派遣法第26条第4項に基づき、派遣可能期間の制限(事業所単位の期間制限)に抵触することとなる最初の日(以下、「抵触日」という。)を、下記のとおり通知します。 記 1 労働者派遣の役務の提供を受ける事業所株式会社✕✕✕✕ 102-0072 東京都千代田区飯田橋△△△ 2 上記事業所の抵触日令和4年9月1日 3 その他事業所単位の派遣可能期間を延長した場合は、速やかに、労働者派遣法第40条の2第7項に基づき、延長後の抵触日を通知します。 (注)以下の法第40条の2第1項各号に掲げる場合は、期間制限の例外にあたるため抵触日通知は不要です。 ① 無期雇用の派遣労働者を派遣する場合② 60歳以上の派遣労働者を派遣する場合③ 有期プロジェクト業務及び日数限定業務に派遣する場合④ 産前産後休業及び育児休業を取得する労働者の業務に派遣する場合⑤ 介護休業等を取得する労働者の業務に派遣する場合 (注)事業所の定義・ 工場や所、店舗などの場所(住所)が独立していること・ 経営の単位として人事や経理・指導監督などが独立して機能していること・ 施設として一定期間、継続して運営されていることなどの観点から、実態に即して判断されます。※雇用保険の適用事業所に関する考え方と基本的には同一です。 出典:厚生労働省 東京労働局|労働者派遣事業に係る契約書・通知書・台帳関係様式例 |
派遣の抵触日を迎えた後の対応方法4つ
もし派遣社員が抵触日をむかえた場合、どのようなネクストアクションが待っているのか気になりますよね。
ここでは、派遣社員が抵触日をむかえた後の対応をまとめましたので、事前におさえておくと安心ですよ。
1.派遣先企業に直接雇用してもらう
まずは、抵触日を超えたあと、派遣スタッフ本人の希望を確認したのち、派遣先は直接雇用としてむかえ入れることができます。
この対応には派遣先企業としてもメリットがあります。
なぜなら、求人をだして新たな社員を採用するよりも、現場を知り、勤務姿勢や能力を理解している社員を雇用するほうがスムーズかつコスト削減にもなるからです。
抵触日をむかえた後でも同じ派遣先企業で続けて働きたい場合は、直接雇用の相談を派遣会社にしてみてもよいかもしれません。
2.派遣会社の「無期雇用派遣」として派遣先に残る
条件をみたすことで、派遣元企業で無期労働契約に切り替え、同じ派遣先企業で引き続き働くことが可能となります。
条件は次のとおりです。
- 派遣元企業での雇用期間が通算5年以上であること
- かつ派遣社員自身が希望していること
この方法が可能なのは、派遣元企業で働く期間が通算で5年を超えた際に「無期転換ルール」が適用されることが背景にあります。
同じ派遣会社での雇用期間が通算で5年を超えていて、さらに続けて同じ派遣先企業で勤務したい方は、派遣会社に無期雇用を相談してみるのもおすすめです。
3.課や部署を変えれば同じ派遣先で続けて働ける
抵触日に該当した派遣社員でも、同じ派遣先の別の課や部署、グループ会社で働くことはできます。なぜなら、個人での派遣期間制限で定められている企業は事業所単位ではなく、「課・グループ」にあてはまるからです。
たとえば、労務で勤務していた派遣社員が、抵触日を迎える前に総務に異動した場合には、総務課で再び3年間派遣スタッフとして勤務することができます。
4.別の派遣先企業を紹介してもらう
シンプルに別の派遣先企業で働くという方法もあります。
同じ派遣先でも、これまでとまったく違う職種や業務内容で働くことはこれまでのスキルや経験を活かせないおそれもあります。
ですから、あなたが培ってきた経験などを活かしてこれからも働きたい場合は、別の派遣先企業でキャリアを積んでいくのもひとつの選択肢です。
5.登録している派遣会社をやめる
「抵触日」は今後のキャリアプランや働き方を決めるうえで、よいタイミングと考えることもできます。
たとえば、登録している派遣会社をやめて転職活動を開始するなど、新たに次の仕事を探すのもひとつの方法です。
ほかにも
- 他の派遣会社を活用する
- ハローワークで求人情報を探す
- 転職サイトで職探しをする
- 転職エージェントに登録する
などがあげられます。
特に「派遣社員ではなく正社員として働きたい」と考えている方は、年齢的に厳しくなる前に転職活動を開始するのが賢明ですよ。
クーリング期間とは
クーリング期間とは、抵触日を迎えた派遣社員に再び働いてもらうために必要な期間のことです。
すでにお伝えしているとおり、派遣社員は契約開始から3年間しか同じ起業・同じ部署では働けません。
たとえば、Aさんを2021年10月1日から2024年9月30日までの3年間、派遣社員として雇い入れていた場合、この企業は利用期間終了日の翌日である2024年10月1日以降は人材派遣を利用できなくなるのです。
この「利用開始から3年後の翌日(利用できなくなる日)」のことを「事業所単位の期間制限に抵触する日」といい、「抵触日」と呼んでいます。
ただし、この抵触日をむかえても、そのあとに3カ月と1日の期間、派遣社員を受け入れなければ、新たに3年間人材派遣の受け入れが可能になります。
この空白の約3カ月間を「クーリング期間」といいます。
派遣期間制限には個人単位と事業所単位の2種類あり、個人よりも事業所単位の抵触日が優先されます。
抵触日を個人単位でみた場合、3年間しっかり最後まで受け入れたとしても、クーリング期間を設ければ同じ企業・同じ部署で同じ派遣社員を新たに3年間受け入れても問題ありません。
たとえば、Bさんを3年間連続して受け入れた場合、3年後の翌日が抵触日に該当します。
ですから、クーリング期間を確認するときには、個人単位か事業所単位か、どちらに設定されているかに注意しましょう。
クーリング期間に関する4つの注意点
ここからは、クーリング期間に関する注意点を解説していきます。どれも重要なことなので、しっかりおさえておきましょう。
1.クーリング期間に入ると有給休暇がリセットされる
クーリング期間に入り、派遣会社と派遣社員の雇用契約が終了したら3年間の就業実績がリセットされます。そのため、残っていた有給休暇もリセットされるので注意が必要。
とはいえ、クーリング期間に入ったから年次有給休暇がなくなるわけではありません。
なぜなら、年次有給休暇は派遣社員と派遣元会社との契約で発生するものだからです。ですから、残っている有給休暇をすべて消化したい場合は、派遣の契約期間を終える前に、計画的に消化していく必要があります。
2.派遣先が必ず受け入れてくれる保証はない
クーリング期間の終了後に、以前と同じ派遣先企業の同一部署に配属されることは可能ですが、その保証はほぼないと思っていた方が無難です。
一般的に3年間の派遣期間が終了したあと、3ヶ月と1日以上のクーリング期間を設けて再契約することは少なく、他の派遣社員を新たに配置する場合が多いです。3ヶ月と1日後に、都合よく同じ派遣先会社・同じ部で欠員がでるなんてことは、ほとんどないといっても過言ではないでしょう。
3.派遣会社との雇用関係がなくなる
クーリング期間に派遣会社との雇用関係がなくなるケースがあるのも注意すべき事項。
抵触日をむかえた時点で派遣会社と契約更新がされなければ雇用関係がなくなります。
そのため、給料や社会保険だけでなく有給の資格も失います。
ただし、派遣社員と派遣会社が任意の継続手続きを行えば、クーリング期間であっても社会保険の資格を保持することは可能です。
このようなケースもあるため、派遣会社は派遣社員に対してクーリング期間をむかえたら雇用関係がなくなることを説明しておく必要があります。
不要なトラブルを回避するためにも、しっかりおさえておいてくださいね。
4.クーリング期間中に直接雇用となったら派遣社員へは戻れない
クーリング期間中に直接雇用となり、クーリング期間後に再び派遣社員に戻ることは、原則1年以内は禁止されていることも注意しておくべきポイント。
これについては次のようにまとめられています。
派遣先は、労働者派遣の役務の提供を受けようとする場合において、当該労働者派遣に係る派遣労働者が当該派遣先を離職した者であるときは、当該離職の日から起算して一年を経過する日までの間は、当該派遣労働者(雇用の機会の確保が特に困難であり、その雇用の継続等を図る必要があると認められる者として厚生労働省令で定める者を除く。)に係る労働者派遣の役務の提供を受けてはならない。出典:労働者派遣法第40条の9第2項に基づく通知書 |
このように、派遣先から直接雇用されると1年は派遣社員に戻ることができません。
派遣先が直接雇用をした場合に生じるリスクについては、事前に説明しておくことが好ましいでしょう。
まとめ
今回の記事では、派遣社員の抵触日や抵触日のリセット、クーリング期間について解説してきました。
派遣社員として働いていても、これらの情報を把握していない方は多いです。
そのため、これらの制度が派遣社員にどのような影響を与えるのか、派遣会社は事前に説明しておくことが必要です。
クーリング期間などへの認識のズレなどによるトラブルを回避するためにも、派遣として働いている方は、派遣会社や派遣先に「抵触日がいつか」ということだけでなく、抵触日発生に伴う影響などをしっかり確認しておきましょう。